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2022年 中高生部門 優秀賞

◎優秀賞 かほさん 中2

『星の王子さま』 サン=テグジュペリ作 河野万里子訳 新潮社

【作品】
「星に帰った王子さま」

 夜空では、無数の星々が笑っている。耳を澄ませば、あの鈴のような笑い声が聞こえてきそうだ。僕はあの日から、こうして星々の笑い声を聞くことが大好きになった。そして、王子さまや彼の星について考える。バラとは仲直りできたのだろうか。ヒツジはバラを食べてしまったのだろうか…。もしもヒツジがバラを食べてしまったら大変だ!そうなったら、この星々の笑い声を聞く時間が、泣き声を聞く悲しい時間になってしまう…。いや、大丈夫だ。もしも王子さまがガラスのおおいを忘れてしまっても、バラが
「ガラスのおおいをかぶせてくださる?寒くて凍え死んでしまうわ。」
と言うだろう。そして、王子さまは優しくガラスのおおいをかぶせるだろう。だから、きっと大丈夫だ。そんなことを考えていると、夜空にきらりと流れ星が流れた。まるで王子さまが「大丈夫だよ」と言っているようで、なんだか嬉しくなった。王子さまが今何をしているかは分からないけど、こうして耳を澄ますと本当に鈴のような笑い声が聞こえてきそうで、少し幸せな気持ちになる。
「きみは今、何をしているかな」
王子さまは無数の星を見つめ、そう呟く。時々王子さまは地球で出会った友達について考える。考えると、少し寂しい気分になる。だけど、ここからは五億もの泉が見える。星たちが王子さまに水を飲ませてくれるのだ。そう考えるだけでなんだか少し幸せになる。そんなことを思っていると、背後から声が聞こえてきた。
「ガラスのおおいをかぶせてくれないかしら。とても寒いわ。」
「はいはい。分かったよ。」
王子さまは少し気だるそうな表情をしつつも、優しくガラスのおおいをかぶせてあげた。
「ありがとう」
バラが少し恥ずかしがりながらこう言えば、
「どういたしまして」
と、王子さまもこう返した。
 王子さまが地球を去ったあの日。王子さまがまだぼんやりした意識のなか目を開けると、そこには懐かしい景色が広がっていた。そう、王子さまは自分の星に帰ってきたのだ。しばらくしたあと、王子さまは今までのことや、今の現状を理解した。その瞬間、王子さまは突然飛び起きた。
「あの花は!?」
この星を出発したとき、王子さまはガラスのおおいを花にかぶせなかった。
〈もしもあの花が今、嫌な思いをしていたら、ぼくが助けてあげないと!早く探さないといけない…〉
そう思ったが、王子さまが立っている三メートル程先に真っ赤で美しいバラが咲いていた。
「やっぱり、とても美しい…」
王子さまは、あまりの美しさに思わずそう呟いた。すると、
「え…」
バラの小さな声がこの静かな空間に響いた。
「なんで帰ってきたの…?」
バラの声は、あの見栄を張っていたバラの声と同じ声とは思えないほど、小さく震えていた。その一方、王子さまの声は生き生きとしていた。
「本当によかった!きみが無事でいてくれて。王子さまは、安心した様子で鈴のような声で笑った。しかし、バラは今にも泣きそうだった。
「本当にごめんね。ぼく、あのころはなんにもわかっていなかった。きみにはきみなりの愛情があった。なのに、ぼくはきみをしてくれたことじゃなくて、言葉で見てしまった。本当は、ぼくはきみに感謝の気持ちを伝えるべきだった。だけど、ぼくは逃げてしまったんだ…」
王子さまも、話すたびにどんどんさっきの笑顔は消えていった。
「ぼくは、間違っていたんだ。…ぼく、この星を去ったあとにいろいろな星に行ったんだ。その中の地球っていう星には、たくさんきみにそっくりな花があったんだ。でもね、ぼくにとってそのたくさんの花よりも、きみの方が大切なんだ!きみに費やした時間が一番大切なんだ!」
再び王子さまの声が響いた。すると、バラも安心したように少し笑った。
「わたしも、間違っていたのかもしれないわ。わたしは、あなたの優しさに甘えすぎてしまったの。わたしこそ、わがまま言ったり変な見栄をはってごめんなさい。」
こうして、王子さまとバラは無事に仲直りすることができた。まだ時々けんかをしてしまうこともあるが、時間がたてば元に戻る。
「けんかするほど仲が良い」というものだ。
 王子さまは夕日を眺めていた。すると、コンコンという音が聞こえた瞬間、バラの焦った声が響き渡った。
「ちょっと!!この羊がガラスのおおいを叩いてきますの。どうにかしてくださる?」
王子さまが振り返ると、そこにはガラスのおおいを鼻でつついている羊がいた。王子さまはすぐに羊とバラの元へ駆け寄った。
「この花を食べちゃだめだよ。この花はぼくにとってたった一つしかない大切な花だから。」
王子さまは優しく羊に教えてあげた。
「ごめんなさい。僕、この子と遊びたかっただけなんだ…。」
王子さまは、落ちこむ羊を見つめて言った。
「もしもきみが絶対にこの花を食べないなら、仲良く遊んであげてね。」
「え! いいの?」
羊は目を輝かせて言った。
「…まあ、仲良くしてあげてもいいわ。」
バラは、口では気だるそうだが、内心少し嬉しそうだった。
〈二人とも、仲良くなってくれてよかったな。…きみから、この小さい羊をもらって良かったよ〉
王子さまがそんなことを思っていると、突如遠くからバタバタと音が聞こえてきた。
「何の音かしら?」
「なんだろう…たくさん聞こえるよ!」
バラと羊は、何の音か理解していなかった。しかし、王子さまはすぐに分かった。
「渡り鳥の音だよ。」
「渡り鳥?」
羊が聞き返すと、王子さまは遠くを見つめるように言った。
「…ぼくも、あの渡り鳥と一緒に色々な星を旅したんだよ。」
王子さまが染みじみとあの時のことを思い出していると、だんだんと渡り鳥の姿が見えてきた。しかし、見えたものは渡り鳥だけではなかった。渡り鳥は男を運んでいたのだ。
 しばらくして、男は王子さまたちがいるこの星に着地した。男は、白くて地面につきそうなほど長いマントを身に付けていて、服はまるで星を映しだしたかのように輝いていた。その輝かしさに、王子さまたちは唖然としていた。しかし、そんなことはおかまいなしに男は王子さまの方へ近づいた。
「やあやあ、こんにちは。この星には、君一人しかいないのかい?」
「いや、ぼくとこの花と羊がいるよ。」
王子さまは答えた。しかし、男は「へえ…」というだけで特に興味を持たなかった。
「あの、あなたは…」
「ああ、自己紹介を忘れていたね。私は、サンセリテ・アムール。アムール王子と呼んでくれ。私は、サンセリテ星の王子でね。私の父は国王を務めているんだ。私が住んでいた星はとても大きくて…そうだな、ざっとこの星の二百倍ぐらいの大きさなんだ。人口は約四百五十人ぐらい。花や羊もたくさんいるよ。」
アムール王子は、早口で答えだした。
「そうなんだ。…その服、とても輝いているね。」
「そうだろう? これは特別な布で織られていて…」
アムール王子は、またもや早口で話しだす。
〈この人は、二番目の星にいた男と似ている。大物気どりなんだ。自分を称賛する言葉しか耳に入ってこないのだろう…〉
王子さまは、ふとここで疑問に思い、アムール王子の話に割りこんだ。
「なんでアムール王子はここに来たの?」
「え?…ああ。一人旅をしに来たんだよ…この星に来るまでにも、色々な星に行ったんだ。だが、話が合う人がいなかった。…そうだ!少しの間、ここにいさせてもらえないかい?」
「…うん。いいよ。」
こうして、アムール王子はこの星に住みつくようになった。
 アムール王子がこの星に来てから何日かたった。けれど、王子さまたちは呆れていた。理由は、アムール王子が自分の自慢話しかしないからだ。最初のうちは良かったのだが、同じ自慢話を何回も聞くと、さすがに飽きてしまったのだ。そして、今日も自慢話をしている。つまらない王子さまは、話題を変えるために、アムール王子をほめてみた。
「アムール王子がつけている指輪、とってもきれいだね。」
〈きっとまた、自分の自慢話を長々と語るのだろう…。でも、同じ話をずっと話されるよりはいいや〉
王子さまはそう思っていた。しかし、アムール王子の反応は予想外のものだった。急に話をやめ、少しうつむいていたのだ。その反応を見た王子さまは、こう問いかけた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。」
「どうしたの?なんでそんなに悲しそうな顔をするの?」
「君には関係ない。」
王子さまが問いかけても、アムール王子は何も話さなかった。しかし、一度質問をしたら絶対にあきらめない王子さまは、あきらめずに何回も問いかける。
「どうしたの?」
「何があったの?」
「うるさい!!」
突然、アムール王子の怒鳴り声が静かな空間に響いた。王子さまは、驚いて声が出なかった。
「…少し、ほっといてくれないか…。」
アムール王子の声は弱々しく、さっきの怒鳴り声と全く別のものだった。王子さまは、何も言えなかった。
 翌日、アムール王子は王子さまにこう伝えた。
「私は、今日この星を出ていくよ。」
「…え?」
突然すぎることに、王子さまは動揺してしまった。
「どうして?」
「…また、旅をしたいと思ったからだよ。」
その姿は、出会ったときの堂々とした姿とは全くの別人だった。
「まって!最後に聞かせて。…どうして、指輪のこと話したとき、悲しそうな顔したの?」まだあきらめていなかった王子さまは、アムール王子に聞いた。しばらくの沈黙の後、アムール王子は重い口を開けた。
「…自分が惨めだと思ったからだよ。」
またしばらくの沈黙が流れ、アムール王子は話を続けた。
「この指輪は、妻との結婚指輪なんだ。私は、ある組織に命を狙われていた。ただ、私だけなら良かった。その組織は私の妻と娘の命も狙っていたんだ。だから、私は星を出たんだ。その方が二人は命を狙われずに、安心して生きていけるからね。…しかし、気付いたんだ。私が星を出たのは、家族を守るためではなく、自分を守るためだったということに。私は、大切な家族を置いて、一人で敵から逃げた惨めな人間なんだ…。」
アムール王子の目は潤み、声は震えていた。
王子さまは何も言えなかった。王子さまの横で話を聞いているバラと羊も黙っていた。
「そして、逃げた先のこの星でも君たちに迷惑をかけてしまったね。私はただ、自分を認めてくれる人と一緒にいたかった。それだけなんだ…。このままここにいると、君たちを困らせてしまう。だから、私は今日、この星を出ていくよ。」
アムール王子は、悲しそうに笑って言った。
「じゃあ、お元気で」
「まって!」
アムール王子が王子さまたちに背をむけたとき、王子さまがアムール王子を呼び止めた。
「アムール王子は、また逃げるの?…ぼくも前、いろいろな星を旅したことがあるんだ。その時、三番目に行った星には、酒びたりの男がいたんだ。その男は、お酒を飲んでいることを恥じていて、そのことを忘れるためにお酒を飲んでいたよ。おかしいよね。ぼくには全く理解できないよ。…でも、アムール王子もこの男と同じことをしている!アムール王子は、人に迷惑をかけて(本当は迷惑なんかじゃないけど)逃げてしまうことを恥じていて、そのことを忘れるために逃げている。とっても矛盾しているよ。大人ってやっぱりすごく変だよ!」
王子さまは叫ぶように言った。
「そして、アムール王子は家族に迷惑なんてかけていなかったよ。それよりも、アムール王子がいなくなってしまったことの方が家族にとって迷惑だよ!きっと、今頃家族はとてもアムール王子を心配しているよ!」
アムール王子は何か言いかけた。しかし、王子さまは続けて話す。
「ぼくは旅をしたとき、地球という星に行ったんだ。そこには、この花がたくさんいたよ。」
王子さまは、バラを指さした。
「ぼくは、バラの花はこの世で一輪しかないと思っていたから、とても悲しかった。でも、ぼくにとって大切なのは、彼女だけだ。他の人から見たら、他のバラと同じに見えるかもしれないけれど、ぼくにとって特別なバラなんだ。ぼくは、ぼくのバラに、責任がある。」
バラは、少し照れていた。そして、王子さまは、アムール王子を真剣な表情で見つめる。
「これは、アムール王子も同じだよ。他の人から見たら、アムール王子も普通の王子様だ。でも、家族にとってアムール王子はこの世でたった一人しかいない、とっても大切な人なんだよ。」
アムール王子の瞳は潤んでいた。そして、真っ直ぐ王子さまの目を見つめた。
「私は、やっぱりこの星から出ていくよ。」
アムール王子は笑う。
「私は、私の家族に、責任がある。だから、私の星に帰ることにするよ!」
そう言うアムール王子の姿は、出会ったときよりも堂々としていて、太陽のように明るかった。そして、その明るさにつられるように王子さまも笑った。鈴のように。
〈この声、きみに届いてるかな〉

◎優秀賞 岡澤 俊貴さん 高1

『ニール・サイモン戯曲集Ⅳ』 ニール・サイモン作 鳴海四郎、酒井洋子訳 早川書房

【作品】
 主人公と自分

 ニール・サイモンは、一九二七年生まれのアメリカを代表する喜劇作家である。僕が今回読んだ戯曲集には、彼が一九八〇年代に書いた自身の自伝的三部作が収められている。彼の作品らしくコメディーではあるものの、最大の特徴は、彼の育った環境、特にユダヤ系としての出自が色濃く表れていることだ。しかし僕は主人公のユジーン・ジェロームと自分を重ね合わせ、彼の成長物語としても読んだ。
 三部作の第一作「思い出のブライトン・ビーチ」は、一九三七年のニューヨークのユダヤ系家庭が舞台である。作者の分身である主人公のユジーンは、僕と一歳違いの十五歳だ。僕が彼を自分と重ね合わせている理由の一つは、この主人公と自分に似ている所があると感じたことだ。野球が好きな所や冗談をよく言う所もそうだが、一番の共通点は物事を客観的に見がちである所だと思う。ユジーンの、物事に積極的に関わろうとしない姿勢が自分にもある気がするのだ。さて、ユジーンは両親と兄、そして夫が亡くなって引っ越して来たおばとその娘二人という六人と住んでいる。生活は豊かではないが、ある時この家で騒動が巻き起こる。きっかけはいとこのノーラがミュージカルに出演する機会を得たことなのだが、その後も次々に事件が起こり、家族の間で争いが始まってしまう。遂に、おばブランチは娘達を連れて家を出て行く決心をし、兄スタンリーも家出をしようとする。しかし、そんな状況でもユジーンは問題の当事者にはならず、一歩引いた位置から見ている印象がある。そして結局、彼らも家族としての絆を感じ、全ては元のまま収まるのだ。この甘さは、三部作の後の二作には見られない所である。
 そしてユジーンも、二作目の「ビロクシー・ブルース」では、そのままではいけなくなる。この物語では、第二次世界大戦が始まり彼も出征するのだ。舞台はミシシッピ州ビロクシーの軍の訓練場で、ユジーンは班の仲間達と共に厳しく、時に理不尽な訓練を受けることになる。ここで最重要人物の一人、エプスティンが登場する。彼はユジーンと同じくユダヤ系で、芯の通った人物であり、上官の命令に反発することもある。そんな彼を立派だと言うユジーンに対し、彼は「君は人生に突っ込み方が足りないよ。(中略)思い切ってどまん中に跳び込まなくちゃ。態度をはっきりさせなくちゃ。」と批判する。ユジーンの「客観」はここにきて「傍観」と見られてしまうのだ。また、班の仲間にユダヤ人として差別を受けたエプスティンをかばえなかったこともあり、ユジーンは「傍観者」としての自分に悩むこととなる。確かに、僕も「傍観者」でいることは自分と向き合うことから逃げているということではないかと考える時がある。この悩みを解決しなければ、自分の将来を切り拓くことはできないのだろうか。
 三作目「ブロードウェイ・バウンド」の舞台は再びブルックリンのジェローム家だ。ユジーンは復員していて、喜劇作家になろうと兄スタンリーと共にテレビ用のコントを書いている。彼のセリフに「ちょうどぼくの頭のどっかに例の人当たりのいい、おかしなガキがいるみたいで……そしてもう一方には書くやつが、怒り、敵愾心を燃やした本当の人でなしがいるみたいにね。」とあり、彼が傍観者としての自分も残しつつ、書くことで表現する作家としての新たな自分を見つけたということが分かる。つまり、彼は「人生に突っ込む」覚悟を固めたのだ。しかし、そうやって着実に目標へと歩んで行く兄弟とは裏腹に、ジェローム家は崩壊へと向かっていた。すでにおばのブランチは金持ちと再婚して娘二人と共にジェローム家を去っているが、その代わりに祖父ベンが滞在している。ブランチはベンに家を買って楽させてあげようとするが、彼はそれを拒絶するのだ。さらに、第一作では働き者の立派な父親として描かれた父ジャックも、新たな女性を見つけて妻ケートとは不和になってしまう。両親の離婚の危機にユジーンは当事者として苦しむが、彼には何もできない。そしてこの戯曲は、作家としての職を得たユジーン達兄弟が、もはや母と祖父の二人しかいなくなった家から引っ越して行く場面で終わる。せつないシーンだが、そこには希望がある。もはやただの傍観者ではないユジーンは、作家としての夢を実現するために出て行くのだ。この悲しみも乗り越えて成長して行くだろう。僕も彼のように自分の夢を見つけ、未来を切り拓いていきたい。

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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)

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