過剰にアピールしてくる自意識くんとお話してみた

「失礼します」

「よう、くず。お前から来るなんて珍しいじゃねえか。何の用だ」

「少し話したいことがありまして。単刀直入に言わせていただくと、最近自意識さんしゃしゃり過ぎだと思います」

「そりゃ、お前が最近インターネットで配信活動なんざ始めたからさ。見られる側としていろんな人に話を聞かれて?SNSも積極的に動かして?こっちとしてはいいネタができたってもんよ」

「おかげで大変なんですよ。あの発言は大丈夫だろうか、私は話を聞いてくださっている方々の時間を無駄にしていないだろうか、ツイートは多くない?自信家だと思われてない?言い出したらきりがありません。そして他人の人生に交わる責任を、傲慢だと知っていながら毎日感じてしまいます」

「それでこそ俺の本領発揮ってもんよ。過剰でこそ自意識。いかにしゃしゃって杞憂させるかってところが勝負なわけ」

「そんな美学いらないし、考え過ぎって何回言われたかわかりません…。あと少し貴方の活動が控えめになるだけでいいんです、お願いします」

「そりゃ聞けねえ頼みってもんだ。ただそうは言うけどよ、俺もだいぶ主張しづらくなったぞ。ほら、お前一年半近く前にコンビニでアルバイト始めただろ。あれ以来、店員とのやりとりなんかは殆ど駄目だ」

「もうやめちゃいましたけどね。コンビニ店員を経験して一番に思ったのは、客の動向なんて店員は殆ど気にしていないということでした。やらなきゃいけない仕事が多い中、誰が何を買ったとかどんな挙動だとか、脳のキャパをそこに割いてられないんです。印象に残る出来事があっても、大概がよほどの悪意がない限りマイナスな印象ではありませんでした」

「昔はファミレスで好きな食べものが頼めなかったりしてたのになあ。そういえば配信でそのことを話したら中二病じゃなくてもはや小二病って言われてたな、クスクス」

「あのコメントはキャッチコピーにしたいくらいお気に入りなので気にしてないです。確かに昔は好きな食べものや今食べたいものを店員や一緒にいる知人に知られることが嫌で、食べたくもないものを頼んだりしていましたね…」

「逆にどうして今は気にならないわけよ。もしかしたら店員や知人に何か思われてるかもしれないし、前は今食べたいものから自分の性格の悪さがバレるかもしれない、なんてところまで気にしてたって言うのにさ」

「それを他人に話すと本気で心配されたり笑われたりするのですが、何も私自身本気でそんなことを思っているわけではありません。例えば自分の好きな食べ物がハンバーグだったとするじゃないですか。当時それを他人に伝えるって、私にとっては『私は叩かれるのが大好きなドMです!』って宣言することとほぼ同義だったんです」

「ほう、それはまたどうしてよ」

「人間の三大欲求ってありますよね。あれを学校で学んだときに疑問がわいたんです。寝顔や性行為の現場を見られることは恥ずかしいのに、何故給食は向かい合って食べるのだろう。何故性的趣向を言うのは躊躇するのに、好きな食べ物は自己紹介で言うのだろう。こんなふうに」

「寝るときの癖も人によっては言いづらいよな、ぬいぐるみ抱いて寝ますとかさ。しかも盛り上がらないとかいろいろあるだろうけど自己紹介じゃ言わないし。まあ言いたいことはわかるぜ」

「そう考えたとき、食に関することは私にとってはすごく重みのある情報で。しかも『私ハンバーグ定食で』って言うのって、遠回しに『私は今ハンバーグが食べたいんだ!この写真のハンバーグだ!持ってこーい!』って言ってるのとほぼ同じじゃないですか」

「それが世間一般でいう誰もそこまで気にしてない、ってやつか」

「同じ理由で目的が明確な施設も苦手でした。ショッピングモールには入れても、クレープ屋さんの行列に並んだりするのがどうしても『私は今クレープが食べたい!』って周りの人たちに言いふらしているような感覚に陥ってしまって。誰が気にするとかじゃなく私が気にしているのだから仕方ないじゃん論点ずれてるよ、と当時は思っていましたが、今思うと誰も気にしてないってわかってるなら思う存分クレープ食えよって感じです」

「なるほどねえ。じゃあ今は行列のできてる店にも並べるし、レストランでも気兼ねなく注文できるってわけ?」

「ニヤニヤしないでください。三大欲求云々に関しては、人間とはそういうものなんだと比較的すぐに割り切れました。今は好きなものは頼めますが、声に出して『ハンバーグ定食1つ』とはまだ言えません。写真を指さしてこれください、って言います」

「やっぱりそうこなくっちゃだよなあ。ほらほら、最近通い始めたスポーツジムなんかはどうよ」

「勿論気になりますよ。毎回準備運動のときなんかは『痩せたい!筋肉ほしい!レッツマッチョ!』って叫んでる気分です。ただ筋トレやウォーキングをしているときはそっちに集中しちゃうので、気になりづらくはなりますね」

「そうそう、それが聞きたかったんだよ。でも段々俺の扱いに慣れてきてやがるな…?まあこれまでは主張し放題だったから張り合いが出てきたってもんだよな。早速全身がまた疼いてきたぜ」

「手加減のお願いをしにきたのに…。まあせいぜい私もネタを提供しないように頑張りますよ。今日はもう遅いので帰って眠ります。夜分遅くにお邪魔しました。おやすみなさい」

「お、配信者さんはおやすみツイートすんのかな?有名人でもないのに?」

「ああもう、しません、しませんよ。明日の用意をして眠るだけです。さようなら、おやすみなさい!」

「はいよー。全く、これだからこいつの自意識やめらんねえんだよな、くくく」

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