まどろみの竜と狂える乙女たち
初夏の日差しを避け目抜き通りの賑わいと潮風を背に、路地に入る。
人目が減ったところで角を曲がりぎわに左手の指輪を軽くこすりながら、わたし、ジュリカ・ジュテが向かうのは〈ウミツバメの天秤〉亭。
重い扉を押し開くと、肉と香辛料の焼ける匂い、そして人いきれが押し寄せる。
まだ陽も高いのに、けっこうな喧噪が店内に満ちている。見たところ、その多くは商船の船乗りや港の労夫と、冒険者を自称する流れ者連中のようだ。
暑苦しい男たちの体臭が入り交じって鼻をつく。そういえば今日は港に大