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とある若頭の高校生活①


プロローグ


良い大学に入るため、

部活を頑張るため、

周りが行ってるからなんとなく、


人が高校に通う理由はさまざまである


これは、自らの夢を叶える為に高校生活を奮闘する、一人の少年の物語


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「ここが今日から俺が通う高校か…」


彼の名前は設楽〇〇、17歳


今日からこの『私立乃木坂学園高校』に通うことになった


なぜこの高校に通うことになったのか、話は少し前に遡る


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「おう○○、悪かったな急に呼び出して」



○「親父、なんだよ話って」


たった今親父と呼ばれたこの人物は設楽統


主人公である○○の実の父親であり、東京一帯を占めるヤクザ『設楽組』の組長である



統「この間の抗争、見事だったよ。あれだけの規模の組織を力で抑えつける、そんなことが出来るのはお前くらいだろう。俺自身も次の組長はお前に継がせるつもりだった」


○「おい、まさかそんな話をするために呼び出したんじゃないだろうな?」


統「だがな、組内部ではお前を次の組長にするのに反対だという声も上がってんだよ」


○「ちょっと待ってくれ、この組で喧嘩が一番強えのは俺だ。次の組長は俺以外ありえねえ」


統「今はな〇〇、ヤクザも頭の時代なんだ。お前のように力で支配するやり方は、敵を作り過ぎる」


○「くっ…」



統「なあ〇〇、本気で組長になりたいか?そのために、どんなことがあっても耐えられるか?」


○「当たり前だ。俺はずっとこの組一本でやって来て、若頭にまで登り詰めたんだ。組長になるためだったらどんなことでもやってやる」


統「…そうか、安心したよ。お前にそこまでの覚悟があるのなら、もう一度チャンスを与えようと思う」


だが次に出て来たのは、〇〇も予想だにしないような言葉だった



統「高校に行け、〇〇」



○「………は?」


統「高校に行って、色んなことを学んでこい」


突然のことに唖然とする〇〇


統「知り合いに高校の校長をやっているやつがいてな、そいつに頼んで、そこの3年生に裏口入学させてもらえることになった」


○「ちょ、ちょっと待ってくれ、話が突然過ぎて全然意味分かんねえ」


統「これはな〇〇、何の冗談でもない。ヤクザだって力だけの馬鹿の下で働きたいやつはいない。だから高校でみっちり勉強して、来年の春までに卒業証書もってこい」


○「だからってよ…」


○○が納得いかない表情をしていると統は、


統「○○、ヤクザの世界の掟を忘れたのか?上の言う事は絶対だ。お前には、YES以外の選択肢は無いんだよ」


真剣な表情でそう言い放つと、部屋から出て行った


○○はしばらく呆然と立ち尽くしていた


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組事務所に戻るが、まだ納得の行かない○○


○「くそ、高校なんて冗談じゃねえぞ、中学だってロクに行ってなかったのによ。組のためだけにこれまでやって来たってのに」


「でしたら、やるしかありませんよ」



そう言ったのは、設楽組の組員で、○○の世話係でもある岡田昇だ


○「は?無理にでも高校に行けってことかよ」


岡「それしか手段が無いなら仕方がないでしょう。俺はどんなことがあっても、若に組長になっていただきたいんです」


「自分もです!」


事務所にいた他の組員たちも、次々にそう言った


○「…お前らにそこまで言われちゃ仕方ねえな。やってやるよ、サクッと高校卒業して組長になってやる」


こうして○○の、組長になるための挑戦が始まったのだった


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岡「若は家庭の事情による転校生ということになっています。素性を知っているのは校長だけ。周りにバレたら退学は免れない。当然喧嘩はご法度です。くれぐれもお気を付けください」


○「あぁ、分かってるよ。それじゃあ行ってくるわ」


岡田ら組員達に見送られて、○○の高校生活初日がスタートした



〜職員室〜


「あなたが○○くんね。はじめまして、校長の深川麻衣です。あなたのお父さんには昔凄くお世話になってね、事情も聞いているわ。だからといって特別扱いは出来ないけど、これからよろしくね」



○(いやいくつだよこの人。若過ぎだろ…)
「…よろしくお願いします」


「深川校長!今日から転校生が来るなんて聞いてません!それでなくてもクラス替えしたばかりでまとまってないのに…」



深「あら、衛藤先生。ちょうど良かった、この子が転校生の設楽くんよ」


衛「あ…ごめんなさいね。担任の衛藤です。よろしくね」


○「はぁ…どうも」


○○は衛藤に連れられて教室へと向かった


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衛「みんなおはよう!」


「おはよ〜!みさみさ今日も可愛い〜!」


「ほら、先生をからかわない!いきなりだけど、このA組に新しい仲間が増えます」


クラス中の目が一斉に向き、少したじろぐ○○


衛「名前書いて自己紹介して」


○「は、はい」


○○はチョークを持ち、名前を書こうとする。


しかし、


○(設楽ってどうやって書くんだっけ…?)


そう、薄々勘付いているとは思うが、○○はとてつもないレベルの馬鹿である


中学はもちろん、小学校の授業すらまともに受けていなかった○○は、自分の名前さえ書けない始末であった


悩みに悩んだ末、最終的に○○は黒板に、


"したら 〇〇"


と書いた


○「し、設楽〇〇です。よろしくお願いします」


〇〇がそう自己紹介すると、クラスのあちこちで失笑が起こった


衛「じゃあ設楽くんはそこの空いている席に座って」


○○が席に着こうとすると、隣の席の生徒に挨拶される


「私、生田絵梨花。よろしくね!」


○○は、「どうも」とだけ返して席に着いた



衛「えっと、1限が現代文なのでこのまま授業を始めます。教科書46ページから…」


○(やべぇ、全然何言ってっか分かんねえ…)


それもそのはず、乃木坂学園は都内でも有数の進学校で、○○が付いていけるレベルの授業ではないのだ


一つも内容が理解出来ないまま、午前の授業を終えた



○「あークソ、やっぱ学校なんてつまんねえな」


昼休み、○○が屋上でゴロゴロしていると、どこからともなく声が聞こえて来た


「なぁ、金貸してくれよ〜」


見ると大人しそうな男子生徒が、三人組の男子生徒に絡まれている


○「へぇ…こんな学校にも不良みたいなやつはいるんだな」


「そんなこと言って返してくれたことないだろ…」


「つれないこと言うなよ、俺らダチだろ?」


「で、でも…」


気にせず寝ようとする○○だったが、不良たちの声がうるさくて眠れなかった


○「おい、うるせえぞ。こっちはくそつまんねえ授業で眠いんだよ。どっか別のところでやれ」


「はぁ?何だお前?」


「お、転校生じゃん。もしかして、お前が俺たちに金貸してくれんの?」


○「貸すわけねぇだろ、寝言は寝て言えモブキャラ共が」


「お前、この人数相手に、舐めてんのか?」


「こいつやっちまおうぜ」


不良たちは○○に一斉に襲い掛かった


○「ちっ… 面倒くせえ」


数秒後、倒れているのは当然不良たちの方だった


「こっ、こいつ化け物だ…」


「くそっ、覚えてろ!」


○「あーあ、初日から喧嘩しちゃったよ。俺が転校生って知ってたから同じクラスっぽいし、やべえかな…?」


一応この男にもまずいという認識はあるようだ



○「ま、手加減したし大丈夫だろ」


勝手に納得している〇〇に、カツアゲされていた男子生徒が近付いて来た


「し、設楽くん、助けてくれてありがとう。」


○「別に助けたつもりはねえよ。睡眠の邪魔だっただけだ」


日「俺、同じクラスの日村勇紀っていうんだ。よかったら、友達になってくれないかな…?」


○「なんで?」


日「なんでって、もちろん仲良くなりたくて…」


○「嘘だね。どうせ俺といたらいじめられないとでも考えたんだろ?」


日「それは…」


○「お前のボディガード代わりなんてごめんだ。それに、俺はお前みたいな弱虫とつるむ気はない」


○○はそう言うと、屋上から出て行った



○○にはこれまでにほとんど友達がいたことがない


初めは友好的でも、ヤクザの息子ということを知った人間のほとんどは怯えて離れていった


たまに近付いて来るのも○○の力を利用するために取り入ろうとする輩ばかりであった


そういった経験から、○○は人をあまり信用することが出来ずにいた



午後の授業も全くと言っていいほど分からなかったが、喧嘩のことが問題になることもなく、○○の高校生活初日は無事に終わった


学校が終わり、岡田と共に街を歩いていると、敵対組織の幹部である男と遭遇した


「よぉ、設楽組の七光り息子じゃねえか」


○「俺をそんな舐めた呼び方してまだ息してんのはてめえくらいだよ、藤森」


藤森と呼ばれたこの男、○○の3つ上の20歳という若さでありながら、設楽組と敵対する組織『武勇会』の幹部を務めている男である


○「さっさと消えろ、今日の俺は機嫌が悪いんだ」


藤「あぁ、そうみたいだな。聞いたぜ、組の跡目から外されたらしいじゃねえか。そりゃ馬鹿には付いていけねえわな」


○「んだとこの野郎!」


藤森に掴みかかる○○


岡「若!ここじゃまずい!」


岡田に止められ見ると、乃木高の制服を着た生徒が下校しているのが遠くに見えた


○「ちっ…」


藤「どうした、やらねえのか?喧嘩しか取り柄がないくせに、随分つまらねえ男になったな」


○○は怒りを押し殺して堪える。


藤「まあせいぜいこれ以上組で干されないように、帰ってお勉強でもするんだな!」


そう吐き捨てると、藤森は笑いながら立ち去っていった


○「くそが… 次会ったら絶対殺してやっからよ」


沸き立つ怒りを抑え、○○たちは事務所に帰った


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○「おい、これは一体何の真似だ…?」


顔を引きつらせながらそう問いかける○○


それもそのはず、目の前には大量の問題集が積み重なっていた


岡「初日の授業を受けてみて分かったでしょう?このままでは卒業なんて出来ません。若には今日から毎日、ここでも勉強をしていただきます」


○「冗談だろ?」


しかし岡田の顔は真剣そのものだった


○「…分かったよ!やりゃあいいんだろ!」


○○にとって生まれて初めての家庭学習であった

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○「ふわぁあ、よく寝た」


普段使わない頭を限界まで使った結果、皮肉にもここ最近でダントツに快適な睡眠だった


○「面倒くせえけど学校行くか…」


朝食を済ませ、○○は学校に向かった


○「おはようございます」


教室に入り挨拶をする○○だが、返す者は一人もいない


○(ちっ、気使って挨拶してやってんのに誰も返さねえのかよ)


朝から○○が苛々している中、教室では何かを企んでいる男たちがいた


「なぁ、設楽のやつこのままにしといていいのか?」


「そんなこと言っても、あの化け物みたいな強さ、喧嘩じゃどうやっても勝てないだろ」


「じゃあこのままやられっぱなしかよ!?」


「俺に考えがある、あいつになんとか恥かかせてやる」


日(今のって…)


古文の授業中、教科書をクラスメイトが順番に読んでいた


○(だりい… 相変わらず何言ってるか分かんねえし、本当に日本語かよ)


「はい次」


気付けば○○に順番が回って来ていた


「どうした?次、読んで」


○(は、俺?つーか今どこ読んでんだよ…まあどっちにしろ読めねえけど)


「23ページの7行目だよ」


声の方を見ると、初日に話し掛けて来た女子生徒だった


○(教えてくれたのはありがたいけど、読めねえんだよ)


教科書を見て読もうとするが、単純に知識が無くて読めない○○


○「すいません、読めません」


「はぁ、まあいい、じゃあ次の人」


「あれ読めないってやばくね?」


「相当頭悪いんじゃないの?」


クラス中がボソボソと○○のことを話している


○(ちっ、聞こえてんだよ全部)


一応その後は何事もなく授業が終わった



○「はぁ、まじきっつ。次の授業は… おっ、体育じゃん。ラッキー、頭使ってばっかりでストレス溜まってたんだよな」


勉強が嫌いな○○にとって、体育は唯一の楽しみといっても過言では無かった


○「あれ?ジャージが無え。おっかしいな、持って来たはずなんだけど」


カバンに入れて持ってきたはずの体育着が見当たらない


○「仕方ねえな、サボるか…」


いくら探してもジャージが見つからないので、○○は仕方なく屋上でサボることにした



○(体育終わるまで寝るかな)


屋上に着いた○○が見たのは、不良たちに日村がボコボコにされている光景だった


○「ちっ、こいつらまたやってんのかよ… ん?」


日村の手元には、○○のジャージが握られていた


日「あ… 設楽くん…」


不良たちは○○の存在に気付いた


「やばいよ!設楽が来た!」


「い、いや、これはな…」


頭が悪い○○だが、状況を見て大体察した


○「てめえら、つまんねえことしやがって。今すぐ失せろ、次こんなくだらねえことしやがったら…」


○○は鬼のような形相で言った


「殺すぞ?」


「す、すいませんでした!」


不良たちは怯えながら去っていった



○「おい、大丈夫か?」


日村に駆け寄って心配する○○


日「ごめん設楽くん… ジャージ、汚れちゃった…」


○「何やってんだよお前、他人のジャージひとつでこんなになってまで」


日「そんなの、友達が嫌がらせされそうになってるのに、ほっとけるわけないだろ」


その時、何かが○○の心の扉を叩いた



日「でも、だめだね俺。勇気を出してあいつらに挑んだけどまたボコボコにされて、結局弱虫のまんまだ」


日村は苦笑いしながら言った


○「…そんなことねえよ」


日「え?」


○「前に弱虫なんて言って悪かった。身体を張って俺のためにあいつらと戦ってくれたんだろ?ありがとな。お前、強いよ」


日「設楽くん…」


少しの間があって、○○は言った


○「…今度は俺から言わせてくれ。俺とダチになってくれないか?」


日「うん、もちろん!」


○○にとって初めて本当の友達が出来た瞬間だった


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岡「若、なんだか今日は上機嫌ですね。高校生活は楽しいですか??」


岡田は事務所で勉強をしている○○にそう訊ねた


○「別にそんなんじゃねえよ。組長になるために仕方なく行ってるだけだ」


岡「そうですか…」


○「あ、でも…」


岡「でも?」


○「…少しだけ良いこともあったな」


○○は屋上での出来事を思い出し、少し照れ臭そうにそう言った

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