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連載小説★M&A春風 第50話 親子関係

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 そして、建機業界プレイヤー分析。

 ここは真奈美が分析した資料と大きくは変わらない内容であった。

 そして、市場分析が終わると、いよいよ続いて企業分析である。

 これも流石、投資銀行の分析は広くて深い。

 林は、元々の親会社である三島電機の状況から説明を再開した。

「国内有数の電機メーカー、三島電機は、近年そのポートフォリを入れ替え、現在では法人向けAIクラウドサービス事業に大きく舵を切っていることはご存知の通りです」

 日本人であれば誰でも聞いたことがある大手電機ブランドだ。
 家電製品も広く知れ渡っている。
 ところが、主要事業はすでに電機から離れているらしい。

(いつの間に、そんなに事業が変わったのかしら……)

 真奈美の疑問を、林が読み解いていく。

「彼らは元々、大きな資本が必要な機械や重電分野は積極的に子会社上場させ、本業を法人向けのコンサルサービスにシフトしようとしていました。
 建機事業も、重機産業ですしレンタル事業も必要となるとやはり大きな資本が必要ですので、MFSも親子上場会社のひとつでした」

 林はざっくりと説明をしていく。

「そんな中で近年、親子上場の問題点がクローズアップされ、東証も問題視している背景もあり、親子上場解消ブームが起こりました」

 親子上場とは、上場企業の子会社が、子会社のまま上場すること。
 その場合、たとえば親会社が51%、残り49%を市場の株主が持つようなイメージだ。
 親会社と少数株主(一般投資家)の間での利益相反が問題視されている。

「そこで三島電機は、元々60%保有する三島建設の株式を売却し、近年23%まで下げ、親子上場関係を解消しました」

 つまり、現時点ではすでに三島電機は親会社ではなくなっているということだ。

「まだ筆頭株主ではありますが、すでに主要事業であるAIに舵を切り持ち分も23%まで落とした三島電機にとって、重機中心の建機事業はシナジーも薄いことから、おそらく変な口出しはしないだろう、と見込んでいます」

 ターゲットは三島建機の子会社だ。
 交渉相手はその親である三島建機だけにしてほしい。
 おじいちゃんの三島電機にまでしゃしゃり出てきたらまとまりにくい絵姿が容易に想像できてしまう。

 だからこそ、IWBC証券は最初に三島電機が障害になりそうか否かから説明をしてくれているのだった。
 その安心材料に、真奈美はほっと胸を撫で下ろした。

 (補足解説:飛ばしてもOKです)

 今回は親子上場問題について補足しますね。

 親子上場した企業にとっては、資金調達や上場企業としての信用度などのメリットがあり、かつては日本企業でも子会社上場の事例は多かったですようです。
 ですが近年は、子会社が親会社の利益に追従しやすく、その他株主にとって公平では無いという内在的構造(これを利益相反と言います)が問題視され、東証の指導もありかなり解消されてきています。

 親子上場解消には、持分を放出(まとめて買いたいという買い手とのM&A)して議決権を薄めるか、もう一度100%取り込む(親会社によるTOB)のいずれかとなります。

 さて、親子上場会社の株価ってどうなるのでしょう?
 通常は、利益相反問題を抱えていることや、親子関係による多角化が逆に効率を悪くしている場合の悪影響(コングロマリットディスカウントと言います)などを理由として、実力に比してあまり高い価格になりにくい傾向があります。

 ただし、親会社がTOBする場合は、現在の株価よりもTOBプレミアム(コントロールプレミアムとも言います。第三者評価の結果によりますが通常30%から50%ほど高値で買いつけます)が期待されます。

 ですので、親子上場解消が近いと言われる株式は、すでにある程度プレミアムを織り込んだ価格がついている場合があったりします。中には、過度な期待が乗っちゃってバブル化している銘柄もあるような(汗

 今後も親子上場は解消される傾向は変わらないと思いますので、そのような株に投資しておこうという話も聞いたりもするのですが……すでに効果を織り込んで高値になっている可能性や、最終的にTOBでの解消に至らない可能性も大いにあるので、自己責任でしっかり分析しましょうね。

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