見出し画像

Sol-pac(2)

(1)です☟


とくに虐待の場合、その怒りや悲しみを晴らしてしまうと「その子のためにならない」というのだ

袋を使わせないのは、なにより「その親のために」とも

包丁でも持って、立ち向かう

そうでもしないと、ただただ現状を維持することになり、ともすれば「我慢すればするほどに助長することになりかねない」

虐待児童による刃傷沙汰なんて、児童相談所の担当からすれば、たまったものではないが、彼の言うことも一理あると頷かざるを得なかった

さらに彼はこう続けた

「アーティストの依頼も引き受けられない」

絵描きであれ、音楽家であれ、その恨みに変わるほどに蟠(わだかま)った感情のうねりによって生まれる作品もある、というのである

たしかに、その通りだ

そうなってくると、私の依頼を受けた、ということが、いささか悲しく思えてきた

要するに、そういったエネルギーを活かす先がない、もっといえば才能がない、と言われてしまったようなものである

そんな私の思考を見透かしたように「あなたは、お役人ですから」と

歪んだエネルギーは必要ないってことだろうか

たしかに、少なくとも私は、そんなものを必要とするような夢や希望なんて持っていない

そんなものがあったとしたら、たぶん、虐待している親を殺してしまっているかもしれない

この細長男の理屈からすれば、それも余計なお世話だということになる

その苦しみが、その歪みが、人類に多大な貢献をするような能力の発露となり、発動し、発明に繋がるかもしれない

そういった反骨の可能性を残した上で、ただただ見護り、なんとか大人になったとき

そのときに社会に害を成すようであれば、そんな風に育ってしまったのであれば、始めて駆除を

とことん不条理な虐待の歪みから生まれる〈利〉などあるのだろうか

想像もつかないが、そんな虐待児が吐きだすであろう〈ナニカ〉も、さっき私が吐きだした〈ナニカ〉も

あの袋に〈ちゃぶん〉してしまえば、同じようなモノなのかもしれない、あの黒いだけのナニカ

って、いまさらだけど〈ちゃぷん〉ってなに?

私が勝手にそう呼んでるだけだけど

っていうか、なんでこんなにすんなり受け入れてるんだ、私は

なんの疑問も抱かず、さらには次の仕事の依頼までしに来てしまったことに、ここにきて初めて疑問が湧いてきた

と、前をみる、いない

いない?

慌ててまわりを観まわすと、ちょうど店を出ていくのが目に入った

そこは、いきなり消えてしまうような魔法ではないわけね

すぐに立ち上がり、テーブルに多めのお金を置く……あゝ、このあたり私はなんてちゃんとしているんだろう

見事に役人様だわ、無銭飲食なんて、あり得ないものね

店を出ても、まだ細長男の背中が見えていた

追いついて疑問をぶつけようと思っていたのだが、ふと、跡をつけてみたくなってしまった

そして私は、適当な距離をとりつつ、細長男を尾行することにしたのだった

つづく


【募Kindle】
僕の雑文ではございますが、Kindle版を読んでいただくだけで〈海護り募金〉になりますんで🙏👇

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?