8年間片思いされた話 13 お別れ
2017年、9月。
彼氏と一緒に暮らす計画は順調に進んでいき、9月末に引っ越すことが決まった。
周りの人に引っ越すことを話したところ、たくさんの人が引っ越す前に会いたいと言ってくれた。
8月の下旬〜9月の休みの日は全て誰かと会う約束で埋まった。
みんな私のためにプレゼントを用意してくれたりご飯をご馳走してくれたりした。
職場を辞める時も、たくさんの人が悲しんでくれてものすごい量の餞別をいただいた。
友達も同僚も、みんな別れ際に寂しがってくれた。会いに行くねと言ってくれる人もいた。中には泣いてくれる人もいた。
私はこんなにもたくさんの人に愛されていたのかと思って嬉しくなると同時に、こんなに愛してくれる人がたくさんいる地元を離れるのかと思うと苦しくもなった。
田村さんとはことごとく予定が合わず、結局引っ越す前日の夜に1時間だけ会うことになった。
夕飯は別々に食べ、本当に寝る寸前の時間に会った。
田村さんは家の近くまで車で迎えに来てくれた。
私と合流するなり、
「海行こう」
と田村さんは言った。
そういえば長いこと一緒に遊んできたけど、海に行ったことはなかった。
最後にまた新しい思い出ができる。
ご飯に行く時もドライブに行く時も、いつも田村さんが行く場所を決めてくれていたなと思った。
計画を立てることや物事を決めるのが苦手な私のことを理解して、いつもリードしてくれた。
本当にいい人。
こんないい人なのに、どうして好きになれないのだろう。
10分ほど車を走らせ、海に着いた。
9月の海は人がいない。
夜になると暗くて肌寒くて、ちょっと怖い。
「本当に行っちゃうの?」
「うん、行くよ。明日」
「はあ。行かないでよ」
「まだ諦めてないの?」
「当たり前じゃん。好きだもん、初めて見た時からずーっと」
「ごめんね。でも私はこれからもう簡単には会えなくなるし、今日でもう終わりにしなよ」
「最後にハグだけしていい?」
「…うん」
田村さんは私を抱きしめた。
久しぶりに抱きしめられたけど、相変わらずちょっと太っていた。
「あのこ〜〜〜めっちゃ好きだよ〜」
「ごめんね、好きになれなくて」
「俺の実力不足だな(笑)」
「今まで本当に楽しかった。ありがとう。幸せになってね」
「こっちこそありがとう。好きな人とたくさん一緒にいられて嬉しかったよ。絶対あのこが後悔するぐらい幸せになるからね(笑)」
目を合わせて、お互い笑いあった。
そしてお別れした。
1年後の11月、私と彼氏は入籍した。
田村さんは元彼女とよりを戻し、なんと私よりも早く入籍した。
奥様と共に婚姻届を持つ写真を添付し、
「おっさき〜笑」
と連絡してきた。
ちゃんと吹っ切れて幸せになったんだな、と思って嬉しくなったけど、ちょっとだけ寂しくもなった。
「おめでとう!」
とだけ返信し、その日以降連絡は取っていない。
田村さんはあの後お子さんが生まれた。
とても溺愛しているようで、いいお父さんとして頑張っているようだった。
今ではもうSNSも見るのをやめて完全に疎遠になってしまったけど、どうか今でも奥様とお子さんと幸せでいてほしい。
でも、たまに私のことも思い出してちょっとだけ切なくなってほしい。わがまま。
結局好きにはなれなかったけど、震災の時期が来ると思い出す、彼との8年間の思い出。
おわり
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