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【映画】2020年に観た「怪映画」6選 +おまけ

 今年は大変な年でした。
 様々な映画が半年~1年超延期され、劇場でかかる本数が激減。
 そのションモリ具合につられたのか私の鑑賞本数も例年の60%ほどに減少し、「この少なさじゃあ、ベストは選べないなぁ」と思っていました。

 が、しかし!!

 これはやる!!


 世の中には「…………?」「なにこれ……?」「これは……?」と観たものを深い霧に包む、怪映画が存在する!!

 年間ベストはさておいて、俺は、謎の映画を紹介する!! 

 俺たちは、映画のことをまだ何も知らない…………



「2020年にみた怪映画6選」


 はじまるヨ!




①『たちあがる女』



 さわやかな青空にだまされるな! このおばさんは環境テロリストだ!!
 この人が巨大送電線を一人きりで壊すシーンからはじまる本作は、マジメなんだかフマジメなんだかよくわからない感じで物語が進んでいく。
 表の顔は歌の先生、裏の顔は環境テロリスト。主人公は本気で地球を憂いているし激怒している。「政府に盗聴される恐れがある」と破壊活動の話をするときは冷蔵庫にスマホを放り込む徹底ぶりだ。心底マジモンである。
 それにしては集団ヨガの場面で「アー エー ベェーーーー」とアへ顔脱力させている人を切り取ってみたり、劇中BGMを奏でる楽隊が映画世界内に普通に出てきたりする。
 どこまでのめり込んでいいのか、それとも突き放して観るべきなのかわからないまま話は進むがしかし、最後の5分のシークエンスによりこれが若干フマジメかつ本質的には真面目な映画であることが慄然とわかってくる。こわい。
 映画のポスターや惹句、宣伝文句が内容とそぐわなくて問題になったりするが、本作はその最たるものだろう。「幸せは歩いてこない」じゃあないんだよ。
 でももう、ここまで騙す気満々なら、いいんじゃないかな。逆に。ハートフルな話だと騙されて観た人の感想を知りたい。原題は『戦争のただ中の女』です。戦争だよ戦争!!




②『侠女』



 中国武侠映画のグランドマスター、キン・フーが紡ぐ180分のアクション。学のある青年の住むボロ家のそばにある日、美女が越してきて……な序盤から、最終的には観た者全員が出家したくなるスーパー仏教映画。
 謎の女、不穏、怪奇、陰謀、復讐、知略、殺陣と100分くらいまでは、「もうこいつ一人でいいんじゃないかな」な謎の最強坊主の出現以外は超すごいアクション映画である。ところがギッチョンこの映画、女だてらの復讐が遂行されてから、さらに50分くらいを残す。
 一体これから何をするのか? 何が描かれるのか? 答えを書いてしまえば「復讐の虚しさ」である。これが「復讐は何も生まない!」的な手垢のついた代物であるならまだいい。しかし……
 前述した謎の最強坊主がその最強ぶりを余すところなく披露し、ついにはマジで後光が射す。その説得力と迫力。登場人物は膝をつき「ああ……」「ありがたや……」と涙を流す。俺たちも膝をつき涙を流す。仏教はすごい。御仏パワーは強い。最後はそんな場所に着地する。ありがたみの強い怪映画である。
 




③『ざ・鬼太鼓座』



 小津安より下を行くようなローアングル、躍動、ショットの華麗さ……日本映画における偉大な監督のひとり、加藤泰の遺作にあたる。ドキュメンタリーなのに怪すぎて長らくお蔵入りとなっていた映画だ。
 高速で太鼓を叩くハードコア和太鼓集団「鬼太鼓座(おんでこざ)」、彼らの青春と日常とパフォーマンスを追う映画……だったはずである。そうだったはずなのだ。監督に加藤泰を選ばなければ……
 肉体が動き和太鼓が跳ねる圧倒的パフォーマンス、彼らのストイックな日々の鍛練──に被さる怪奇シンセ音楽、続々と挿入される鮮烈なイメージショット。現に夢が侵食し、虚構に打音が食い込む。観ているうちにこれが何なのかわからなくなってくる。
「映画の臨界点」とは思いきった呼び込み言葉だけどそう言いたくなるのも頷ける。あと鬼太鼓座の人たちが完成作を観て「えっ、なんスかこの映画」と文句をつけたことも頷ける。それはそれとしても圧倒的、あまりに圧倒的な怪映画である。



④『直撃地獄拳 大逆転』



 あのね、いい大人がよってたかって、こんなばかな映画を作ってはいけないと思うんだよ。

 好き。



⑤『ザ・カラテ』



 洋画大作にポリティカリー・コレクトネスが導入されて久しい。特に登場人物の人種においてバランスをとることは、多様な世界において必然であると言えよう。
 だがしかし君は知っているか? 1974年の日本には、すでに多様性を獲得した映画があったことを。それがこれだ! 『ザ・カラテ』!!
 主人公山下タダシはブルース・リー映画にも出演経験のある日系アメリカ人(沖縄生まれ)、彼とあいまみえるライバル・敵たちはあらかた外国人。
 ヒロイン、師匠、お笑い担当(山城新伍)こそ日本人ながら、ほとんどのメインキャラが異邦人なカラテ・アクションなのだ。ダイバーシティ…………
 ただちょっと問題があって、戦う奴らがみんなして、日本語がカタコトである。主人公の山下タダシもカタコトで、それはそれとしてもみんな演技があやしい。あと師匠にあたる役回りの鈴木正文氏も本職の空手家で役者ではないので演技が少しアレ。つまり半数くらい、演技があやしい。
 
異邦の格闘家としての哀愁を出すためか? などと考えたりもするが、序盤に出てくる山下タダシの祖母は完全な日本語吹替で超流暢に日本語で喋っている。
 骨太な戦闘の反対側でたどたどしい演技が展開され、なんかもう細かいことはさておきすごい迫力が出ている。山下タダシはマッシュルームヘアにヒゲというもっさい見た目で華がなく、それもまた逆に強さを感じる。まさに「ザ・カラテ」の精神だ。
 映画として面白いかどうか? それはご覧いただいて判断してもらいたい。責任は持たない。私は、愛すべき映画だと思います。ヒットしたのか「2」や「3」も作られてるので、東映は観れるようにとりはからえ。2021年2月までにやれ。



⑥『虚空門 GATE』

 今年最後に取り上げる怪映画は、地球外生命体の乗り物としてのUFOの存在を信じる「UFOビリーバー」を追うドキュメンタリーだ。
 映画監督の小路谷は「宇宙人の解剖映像」に衝撃を受け、これの真偽を確かめるべくUFO専門家や愛好家たちにインタビューを試みる。
 その中にいたのが、「俺、UFO、呼べますよ」「UFOなんかそのへん飛んでますから」「玄関開けたらすぐ飛んでるくらいの感じ……」と豪語する俳優・庄司哲郎。
 UFOが呼べると言うのだからこれはついて回らねばなるまい、と生活に密着取材していたある日、庄司は突如として失踪してしまう。書き置きも連絡もなく……。彼に何が起きたのか……!?
 監督の小路谷は、UFOビリーバーやその周辺の人々をナナメに見てはいない。彼らが本気でUFOを信じているからだ。それに答えようとするかの如く、この映画はほぼ茶化すことなくビリーバーたちを、庄司哲郎を、その恋人を、周りの人々を誠実に撮り続ける。
 途中に炸裂する衝撃の展開をここに書く野暮はしないが、想像だにしなかった斜め上からの急襲に「!?」となること受け合いである。っていうかこれに「!?」ってならない人いるのか。
 怪しい奴らだ、とUFOビリーバーと撮影隊を職務質問してきた警察官がUFOをガチに信じてたり(マジかよ)、庄司哲郎の引き寄せパワーにすごい疑惑が生じたり、とにかくハチャメチャが押し寄せてくるドキュメンタリーではある。でもあくまでこれは人間ドラマだ。色々なことがあるけれど、ダメな奴かもしれないけれど、何かを信じて生きていく人間たちの姿がここには活写されている。
「日本人に空を見上げて欲しくてUFO番組を作った」とは矢追純一の言葉だ。虚空の向こうにあるかもしれない「門」に思いを馳せる人々に、私たちは「もしかしたら」の夢を託す。
 まぁそれはそれとしてやっぱり凄すぎる内容なので、「怪映画」として選ばざるを得なかった。お前が今年の怪・ナンバーワンだ。



◆◆◆◆◆

 

 今年はいわゆるサブスクにて「TOEI JUNK FILM」という60~80年代に東映が勢いと力任せに撮った乱暴な映画が無尽蔵に観れるチャンネルに登録。
 そういうヤツを立て続けに観まくった結果、「濃い映画を摂取しすぎて物理的に胸焼けを起こす」という体験ができた。あとたぶん頭もちょっと悪くなった。


 この他にも、

 松方弘樹がゴーカートに乗って竹内力を助けに来て、寺島進が派手にやっていき、小沢仁志&和義兄弟が三途の川のほとりではしゃぐVシネマ『修羅の血』
 新薬の開発を巡る争奪戦はいいけどラスト10分でどう考えてもどう言い訳されてもやりすぎな事態が爆裂して全てが「ヨシ!」となる『スカイ・オン・ファイア』
 だれでもわかる! 政府与党のわるだくみ! モデルとなった人物が作中でテレビに出て解説までしてくれるやさしい左翼交通安全ビデオ『新聞記者』
 世界の文化の見世物小屋映画でありつつ、秀逸な編集と並べ方で文明国/「未開国」の壁を切り崩していく『ヤコペッティの世界残酷物語』
 人間でもなく猫でもないが人間でもあり猫でもある生物が歌い踊り現実感が吸い取られていく異次元異世界ミュージカル『CATS キャッツ』
 バトル漫画のインフレ? あーはいはいわかったわかったと開き直って後半無尽蔵に戦い続ける狂ったアニメと化した『ドラゴンボール超 ブロリー』

 などなど、様々な方向に「怪」な映画を摂取してきた1年であった。

 映画館のスクリーンのドでかさ、爆音轟音、あるいはかすかな音や静寂を愛する者としては、まったくもってしんどい一年となってしまった。こうなってしまっては遠征も難しいので二重につらい。
 特に洋画の公開は、これから先もどうなることか、劇場に回されずに配信のみになっちゃったりしないかと心配が募る。困ったものである。

 映画欲も月を経るごとになんだか先細りしちゃって、ハリのない日々が続いたりした。これはよくない。どうにかいい感じのアレにグッと持っていかなくてはならんな、と思っている(ぼんやりとした表現) 


 で、2021年は1月1日元旦から、コリアン・ゾンビ・バイオハザードアクション『半島』……じゃなく、『新感染半島 ファイナル・ステージ』が爆公開される。 
 歩く太腕繁盛記ことマ・ドンソクを大ブレイクさせた『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編だ。なんかバイオハザードみてぇに派手派手になっている。正月から派手なゾンビ映画とは実にめでたいではありませんか。
 なお、この映画の主演は私の推しのひとり、「なんかつらい役ばっかりしてる」イケメン俳優、カン・ドンウォンである。よろしくね。


 来年も心身ともに健やかに、いい映画、変な映画、奇ッ怪な映画に出会えるように祈りたい。


 2021年はいい一年になりますように…… コオオッッ……カッ!!!!!




(記事では取り上げなかったけど、千葉真一がすごい顔になる『激突! 殺人拳』は、観ると元気が出るし、「まぁ最後は殴ればいいしな」って気持ちになれるよ!)

 





【おわり】

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