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人生終了ボタン

人生はスタートボタンやよーいどん!のピストルの音で始まるものではなく、

気づけば「生きている」とふと感じるものである。

そんなぬるっとした始まりである。

一生懸命勉強をし、
親の恥にならぬよう、
自分の将来の為品行方正良く生きる。

人間嫌いでも関係を築いていかなければ、
自分の存在場所を作らなければ、

どんなに苦しくても生きなければならない。

そう、生きているのだから。 

最愛の人に出会い、
子供ができて、
暖かい家庭を築く者も在れば、

孤独に彷徨っている者もいる。

この男もそうだ。

全力を尽くしているのに何も得られない。
全てが空回る。

この先良い事あるから頑張ろうなんて気はとうに枯れた。

そして、思う。

よし。ボタンの手続きをしよう。

男は徐ろにポケットからスマホを取り出しどこかに電話をかける。

「すみません、人生救出案内所ですか?すみません、ボタンの手続きをお願いしたいのですが。」

そして1週間後、
ピンポーン
「お届け物でーす」



男の元に無駄に大きな荷物が届く。

よし。これで良い人生を送れる!

男はこの1ヶ月、
疎遠になった親への手紙、
好きだった人へのラブレター、
大嫌いだった人への呪いの手紙、
数少ない友人への手紙、
家財道具廃棄、アパートの退去手続き、
さまざまな契約の解約など、
ありとあらゆるモノの整理をした。

ちっともつまらない思い出なんかも燃やしたりした。

いや、少しは楽しかったか。

最後に向けて努力したことの方が
なんだが生きている感じがした気がする。

男は空を見上げてつぶやく。

「これで完璧だ」

"人生終了ボタン"と表示されたボタンを
男は力強く押す。

ピッ

【本当に人生を終了しますか?】

・・・ピッ

【はい】

すると男の体は砂となり崩れだし、

風に巻かれ消えていった。

今日もこの世から砂となって
消えていった人間がきっと大勢いるだろう。


ピッ

「本日のニュースです。本日人生終了ボタンを使用した人数は23名です。明日からは年末も近くなり天気が崩れやすくなる為ボタン使用者が大幅に増える見込みです。それでは次のニュースです -」

テレビからは特別に感情のこもっていない声が聞こえてくる。

サラリーマンが言う。

「あー、まーたこんな消えたわ。まぁ、人生の終わりぐらい自分で決めたいよなあ」


人生終了ボタン。
それは自分の決めたタイミングで
この世から自分を抹消するボタンである。

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