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なんで毎月高知行って、ワークショップやってんの?

毎月のように高知に行き、「旅づくりワークショップ」をしている。では、そもそも「旅づくり」とは何なのか。なんでコピーライターがワークショップをしているのか。どういうつながり?なんなん?楽しそうやんけ!ちょっとツラかせや。みたいな疑問を、育ちのいい知人たちからたまにいただくことがある。

この記事は、旅づくりワークショップに取り組むことになったきっかけ、狙い、面白さ、人類はどこから来てどこへ行くのか、なぜ我々はホテルの部屋にスマホの充電ケーブルを差しっぱなしにしたまま置き忘れてくるのか、といったもろもろの疑問を明らかにするものである。なぜこんなに円安なのか。

旅づくりをすることになったきっかけ

使われていなかった商店を改装したコミュニティスペース

高知県土佐山にあるNPO「土佐山アカデミー」との出会いは、広告業界仲間のTさんからの紹介である。ある日、「高知いかない?」「いくいく」という軽いノリで高知へ遊びに来たのが、もう5~6年前になる。そこからちょくちょくと付き合いがはじまった。

土佐山アカデミー事務局長の吉冨さんは、広告代理店出身だが、龍馬の個人サイトをつくって、ファミマと商品開発したり、世界最速の流しそうめんをJALの流体力学研究者といっしょに企画したり、「人を巻き込んで、おもしろくする」天才だ。自分もまんまと巻き込まれている。

去年、会社を辞めて、世界一周してきた。そのことを面白がってくれた吉冨さんから、「旅をテーマにワークショップしない?」と誘っていただき、気がつくと、「1年間、毎年土佐山に訪れて、観光資源を発掘し、地域課題も解決できる、ひとつのツアーをつくるってのはどうですか?」と自分から提案していた。恐ろしい。

というのも、そもそも、高知県自体がインバウンドをはじめとした観光への注力を発表しており、土佐山アカデミーとしても、2024年は「DEEPツーリズム」というテーマで活動をしようとしていたのだ。そこにうまいこと巻き込まれたことになる。こういうのが吉冨さんは上手なのである。

ちなみに2023年はNHKの朝ドラ「らんまん」の舞台が高知なので、県としては、「今年はらんまん推しでいく、来年から観光や」となっている。

地域課題とは

土佐山には14の集落がある

日本の課題は、言うまでもなく少子化である。人口ボーナス期が終わり、黄昏のように暮れていく国において、グローバル化にも取り残され、これからどうすんねん、とぼんやり考えながら、特に激しい打ち手はなく、誰一人取り残さないように、医療費はかさんでいく。ジリ貧だ。

それは、都心よりも地方、街よりも山の方が顕著であり、待ったなしで人口減が襲ってきている。あと5年後、10年後には、家を継ぐものや、農家を継ぐものがいなくなり、山に暮らす人たちの生活が立ち行かなくなりそうである。

考えようによっては、ここが日本の課題の最先端地域である。とも言える。中心ではなく、周辺こそが最先端なのだ。ここが地域の仕事の面白いポイントかもしれない。

「関係人口」というアプローチ

土佐山アカデミー事務局長の吉冨さん

もちろん、いちばんの解決は、移住する人を増やすこと。人口をダイレクトに増やすならこれだ。しかし、さあいらっしゃい。自然もあるよ。ごはんもおいしいよ。ただ街からは遠いし、つながりは濃いし、草刈りなどの地域の仕事もあるけど。車ないと無理だけど。みたいなことを言われても、なかなか移住者は増えない。

近年のコロナ禍以降、東京から山梨や長野への移住者が増えたが、実は東京からのアクセスのよさ、がアドバンテージにもなっている。東京の仕事をリモートで持ったまま、山梨に暮らし、何か必要があれば東京へ軽い出張をする。というスタイルだ。

高知にいると、なかなかそのスタイルは難しい。(実は東京まで飛行機で1時間ちょっとの空路があるのだが、心理的な距離は遠い)

それは、日本各地の地域でも同じである。だから、「関係人口を増やそう」というアプローチが増えつつある。いきなり住んでもらうのではなく、よく遊びにくる、とか、ワーケーションに使ってもらう、とか、年に2〜3回来る、みたいな、住んでるわけじゃないけど、生活に近い関わり方をしてもらおう、という考え方だ。

そうやって、土佐山に住む人たちと知り合いになり、食卓を囲み、山の仕事を手伝ったりしているうちに、なんとなくの居場所ができていくのだ。そうしたら、移住の可能性が少しずつ膨らんでくる。ここならうまくやっていけるかもしれない。もちろん、たまに遊びにくるのと住むのでは、大きな違いがあるが。

国土交通省のビジョン

豊富な竹林を活かした流しそうめん企画が実施されたことも

人口が減っていく中、国土交通省が発表したビジョンはこういうものだった。「人減るけど、デジタルとシェアでなんとか効率化してやってくれ」である。つまり、今までは30万人都市を基準に必要なインフラ(病院、大学、消防、などなど)をつくり、周辺都市からは移動してきてもらう、みたいなスタイルだったのが、今後は、10万人都市+5万都市くらいでもやっていけるようにしていこう、とか、そんな感じである。

車を持たない若者が増えている、シェアすればいいから。家だってそう。シェアすればいい。これがお金のない時代のスマートで最先端な在り方。という流れがある。しかし、山の暮らしはとっくの昔からそうなっている。とにかく人が足りない、モノが足りない。それが当たり前だから、農機具も車も食べ物も分け合い、手伝いあうのがカルチャーとなっている。このあたりも、課題の先進性を感じる所以だ。

遊びと学び

草刈りは地域の一大行事

だから、単におもしろそうな観光資源を発掘して、そこにバスでのりこむツアーをつくればいい、というわけじゃなくて、地域の人たちと深く接し、関係性が生まれるような旅がいい。

オーバーツーリズムという言葉がある。たくさんの観光客が来すぎて、現地の環境や文化が毀損されてしまうことを指している。それではダメなのだ。現地との共生が欲しい。そこには、遊びだけじゃなく、学びがある。お客さんとして来るんだけど、ある意味学ばせてもらうというスタンスになってもらえるといい。だから、旅づくりのコンセプトをこう設定した。

弟子入り

草刈機の使い方レクチャー

弟子入りツーリズム。地域の達人たちに弟子入りして、何かしら自分がレベルアップする。遊びと学びが一体となった旅だ。ここには自己啓発的な意識の高さはなく、もっと根源的な楽しみがある。滝の上にいる妖怪について知る。柚子の収穫を体験する。集落全員で一斉に行う草刈りのお手伝いをする。「土佐山アカデミー」が現地の人たちと築いてきた信頼とコネクションによって、ふつうじゃ味わえない「DEEP」な体験となる。

「弟子入り」にはリファレンスがある。富山にある「職人に弟子入りできる宿」だ。実はこの宿の第一号の客が筆者だったという過去がある。ただの観光じゃなく、職人の方にうるし塗りを教えてもらい、その時つくった箸をいまだに使っている。この体験が忘れられなかった。あの家の娘さんは受験勉強がめんどくさい、と言っていたな〜とか、ほんとにちょっとしたコミュニケーションが強く記憶に残っている。

4つの旅

水源の歴史と物語を聞く

土佐山で弟子入りできることを、4つのカテゴリーにわけてみた。これは仮だが、産業や文化を掘り起こしていく時の指針になればいいと考えている。それは、「YUZU」「MIZU」「NOMU」「SUMU」である。

4つの紋章的な冒険感がある

YUZUは言うまでもなくゆず農家によるゆずの収穫の手伝いである。高知と言えばゆずが名産なのだが、それ以外にもたくさんの柑橘類がある。小夏という文旦の一種は、甘さ、苦さ、酸っぱさのバランスが絶妙であり、渋谷で運営しているノンアルバーのレギュラーメニューにさせてもらった。

MIZUとは、鏡川のこと。山には水源があり、その源流を辿ると物語がたくさん発掘できる。山姥や河童の伝説。それに、水道ではなく水を汲みに行っている地域もあり、そこで濾過された水はとてもおいしい。だから、滝を見に行ったり、源流でコーヒーを淹れたりしてもらった。この場合弟子入りする達人は、高知市内のコーヒー屋さんと、源流を維持・管理する方の両者だ。

NOMUとは、高知の酒文化・食文化である。面白いのが、山での飲み会は店ではなく、公民館の前にビールケースと板を渡し、竹とビニールシートでテントをつくって即席で会場をつくってしまうこと。このような「有りもののDIYでなんとかつくりあげる」ことをブリコラージュと呼んだりする。レヴィ・ストロースが「野生の思考」の中で、都市型の価値観とは対称的に、地域や田舎にも豊かな知性と文化があることを提唱した際に使われた言葉だ。これらは吉冨さんの受け売りである。

(あまり大々的には書けないが)山で仕留めた猪をその場で丸焼きにしたり、移動に軽トラの荷台を使ったりと、都市のルールではグレーとされることを、山間部ではその場その場の判断で乗りこなしていく。そのDEEPさもこの仕事の魅力である。クリーンなだけの観光では得られない野生味がそこにはあるのだ。

SUMUとは、まさにこの山に住み、暮らすことの擬似体験だ。「草刈り」はそのひとつ。共同体の仕事として、みんなで取り組むため、ある種の祭りのような雰囲気まで出て来る。市の議員さんが乾杯の音頭をとりにくるくらいだ。

こうして、4つのカテゴリーの中で、土佐山に弟子入りし、DEEPツーリズムを体験する。1年間かけて、旅のプロトタイプを味わい、値付けやブラッシュアップやマップづくり、パンフレットづくりをしていく。すんごい楽しい。

街と山、高知と東京、日本と世界・・・。いろいろなグラデーションの中で、「共に生きよう」(©︎もののけ姫)的な気持ちになってくるから不思議である。興味がある人は、いっしょに高知行きましょう。

夜には焚き火を囲むバーが開催される

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