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#29 給食の放送で「面白い話」がバズった理由

 本校の給食事情はコロナの影響を受けて一変しました。ラッパーのANARCHYは、「たくさんの仲間とテーブルを囲むのが理想だな」というリリックを書いていますが、全く同感です。ごはんはみんなで談笑しながら楽しく食べたい。給食が苦行になったら、片翼をもがれたに等しい。しかし、新型コロナウイルス感染症防止のため、本校では、①給食はみんなで前を向いて食べる②食事中は会話をしないという2点のルールが設けられました。そんな中、私がメンターとして尊敬している先輩教員が、「この状況でも楽しい給食時間を作り出す方法はあるんじゃない?何か考えてみてよ。」と私に投げかけてきました。私のメンターはよく、「方法は100もある」という言葉を使います。いっちょやってみっかということで、コロナ禍における楽しい給食時間を作り出す方法を探す旅が始まりました。

 単発でいろいろ行ってはみましたが、なかなかヒットしません。おそらく大人目線で作られたコンテンツは、子どもの感性に上手くヒットしないのだと思います。そういえば、以前委員会の時間に、企画の段階でポシャった「面白い話」というコンテンツがあったことを思い出しました。委員とは、「面白い話ったって、我々は芸人じゃないしねえ。スベるのも嫌だし。」みたいな会話があり、企画段階で止まっていました。まあ、とりあえず他に案もないし、やってみますか程度の気持ちで始まったこのコンテンツが、見事にバズったのです。今では、放送日を楽しみにしている児童が続出。今日は『給食時間の面白い話はなぜバズったのか?』というテーマで書きたいと思います。

理由①面白い話を投稿制にしたこと

 昼の放送コンテンツに関しては、放送委員が全てのコンテンツを自前で作っていました。例えば「怖い話」、「文集コーナー」、「クイズ」、「子ども新聞」。全て自分たちでネタ集めから行っていました。自分たちで面白い話を作るにも限界があるし、そもそも作る自信がないという理由で、それを全校児童に預けてみることにしたのです。小学生が考える面白い話なんて、大抵が下ネタかギャグだろう。いやあ、侮っていましたね。いざ投稿されたネタを見てみると、これが面白い。例えば、「風呂に入ろうと思ったら、マスクをつけたままでした。」とか、「うちのお母さんが体温計はどこ?と必死に探していたら、自分の脇にさしていました。」とか。やっぱり小学生には小学生のネタが一番フィットするんでしょうね。給食中、密かに偵察に行っていますが、もうドッカンドッカン。笑い声が聞こえてきます。おや、本校では会話しないというルールがあったのでは?という疑問をもった方もいると思います。実はこのルールがバズった理由の②につながるのです。

理由②笑ってはいけない状況下で面白い話を放送したこと

 もしかしたら、これが一番大きいのかもしれません。ダウンタウンの笑ってはいけない○○。大みそかの大人気コンテンツですが、これを教室で体験してしまっている。教室にはルールに厳格な先生がいます。そう、会話をしないで食べるというルールがあるのです。下手したら怒られるかもしれない。でも面白い、笑いたい。そりゃチクリと言われましたよ。「子どもたちが笑ってしまうから困るのよねえ。」「ああ、そうすかあ。まあ、そのうちネタも切れると思うので…」みたいな感じでグレーゾーンにして逃れています。そもそも、先生方もそこまで取り締まろうなんて気はないでしょうし。

理由③名物DJが誕生したこと

 6年男子児童が面白い話を担当しているのですが、彼のDJの手腕がピカ一。話芸を分かっているんですね。校内でも彼の評判は急上昇。彼は非常に実直な児童で、自分から進んで笑いを取りに行くタイプでは全くありません。アナウンス自体は放送委員会の中でトップクラス。彼の才能が開花したことも理由の一つです。彼は、特に「間」の重要性をよく分かっています。オリエンタルラジオの中田敦彦氏は著書「ぼくたちはどう伝えるか」の中で、「お笑いの世界には笑い待ちという言葉がある。ネタを披露して、笑いが起こる。その笑いが起きている間は、台詞を言っても届かないから、演者は少し待つ。この少し待つ行為を笑い待ちというのである。新人は一方的に練習してきたネタを進めるので、それができないことが多い。せっかく笑いが起きても、夢中で次に進んでいるため、次の台詞が聞き取れない。そのかけ違いが続くと、客の心が離れる。笑いは起きなくなっていく。」と記しています。彼はナチュラルにこの笑い待ちができる。段々と職人の域に達してきて、私が面白い話として採用した投稿を手渡すと、おもむろに間をとるべき部分にチェックを入れて、私に返してくるようになりました。すげえな、と素直に思います。

 来年度も、おそらく以前のような給食の時間を取り戻すことは難しいと思います。でも、何かできることはあるはず。そう、方法は100通りもあるのですから。

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