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一周まわって”最高”という言葉しか出てこない。-韓国ドラマ『その年、私たちは』がスキなわけ-

 毎週気が重たかったはずの月曜日。週末の休日から仕事モードへの切り替えが必要なのだけれど、最近の私はちょっと違う。なぜなら、好きな韓国ドラマが毎週月曜日と火曜日に配信されるからだ。今回のエピソードタイトルは何の映画だろうかとワクワクし、次の展開が見れる幸せを噛みしめる。

何を単純な、と思う方もいるかもしれない。しかし、それくらい癒し効果が抜群なのだ。ここでは、毎週Netflixで配信中の韓国ドラマ『その年、私たちは』の魅力を書き留めたい。

その年、私たちとは

 高校時代に、深く愛し傷つけあって別れを告げた男女の”おわり”と”はじまり”を描く物語。学年1位と学年ビリの男女が、1ヶ月間『賢い学校生活』というドキュメンタリーを撮影するところから物語は動き始める。

本作の始まりでは、既に2人の恋は終わっていて『ねぇ何があったの?』という視聴者の声に反応するかのように少しずつ彼らの過去が明かされていく。主演の2人は、韓国映画『The Witch 魔女』以来の再共演。実力派俳優チェ・ウシク氏とキム・ダミ氏が演じている。

ホンネとタテマエを同時に楽しめる

 劇中では、大きな事件や事故が起きるわけでもなく、激しいアクションがあるわけもない。ただ、淡々と時の流れを描いていく。それでも中だるみを感じずに楽しめる理由の一つは、”心の声がダダ漏れ”であることだと思う。

なぜ、このキャラクターはこの行動をしたのか?なぜ、この表情なのか?いつもドラマを観ていると、そのような疑問が思い浮かぶ。この疑問を自分なりの解釈で読み解いていくのが面白いのだが、劇中ではあえて登場人物の感情をナレーションという手段でセリフにして視聴者に伝える。つまり、1シーンに”ホンネ”とタテマエ”の情報が共存しているのだ。

この演出があることで、作品への理解が進み、登場人物への愛が増す。そしていつしか先を読みたくなり、考察して答え合わせできる瞬間を待つ。そうやってハマっていってしまうのだと思う。

会話のズレが面白い

 本作において、物語を前に進める最も重要な要素は、会話だと思う。とにかく登場人物同士の会話が多く、そしてズレる。そしてそれが面白い。

会話の掛け合いを大切に描く坂元裕二氏の作品ともリンクするなと思い、インタビューを読んでいたのだが、この部分がまさに。

”すごく仲のいい友達同士の会話や、仲のいい夫婦には興味がなくて、そこにズレが生まれるから面白い。人と人との間に足りない距離があって、会話が気まずかったり、意志がちゃんと伝わらなかったりするレベルのちょうどいい遠さ、ちょうどいい近さがあって、それが展開の中で伸び縮みする。”

劇中のウンとヨンスが、互いに必要とし合っているのは一目瞭然なのだけれど、正反対な性格の2人は、向き合う度にズレてすれ違ってしまう。しかし、2人の心の距離は、長くなる時もあれば短くなる時もある。この伸び縮みが、会話の中で繰り広げられていくのが面白くて仕方ないのだと思う。

絶妙な”たとえセリフ”

 とにかくセリフがオシャレで、オシャレすぎて紙に書き残したくなる。そんな衝動に駆られるのだが、上手くその理由が言葉にできない。なぜこんなに、セリフ一言一言に心が踊るような、胸がぎゅうぎゅうするような気持ちになるのだろうか。その理由の一つはきっと...たとえ話がドストライクだからではないだろうか。

”愛してる”、”辛い”。そんなシンプルなセリフで心を鷲掴みにする演出も兼ね揃えているのだが、劇中では様々なシーンで"絶妙なたとえ話”が使われている。どれも聴き手が脳内でありありと想像できるような言い回しであり、そのおかげで心情の解像度がぐっと上がる。そして、もう一度セリフを読んで繰り返し浸りたくなるのだ。

痛みを痛みで上書きするキャラ設定

 とある過去を背負って生きるウン。子犬のような天性の可愛さを持ちながら、時にミステリアスな色気が画面中から溢れ出る。そんな不思議な魅力を持つ彼の魅力に、とにかく虜になってしまう本作。時折感じる彼の光と影とのギャップに惹かれるのだが、その背景あるのは”痛みを痛みで上書きする”キャラ設定だと思う。

ヨンスとの別れを経験し、1人部屋に籠って絵を描き続けてきたウン。まるで月のない暗黒の夜の世界を旅するかのように絵を描く姿は、観ていて心が痛む。

話は少し逸れるのだが、影のあるキャラクターといえば大好きなこの2作。心の痛みを喧嘩で上書きしようとした『ただ愛する仲』のガンドゥ。傷ついた心の痛みを言葉にできず、この世に愛着を持てぬまま彷徨い歩く『空から降る一億の星』のムヨン。痛みの上書き方は違うのだけれど、その姿はどこか彼らにリンクする。優しくて、どこか甘えられずに1人で背負いこむ。そんなキャラクターだからこそ、危険な色気とともに影を感じさせ、気になってしまうのだと思う。

悪役が出てこない安心感

 登場する人、する人...本当に良い人ばかりなのだ。とにかくどの登場人物も"人想い"で真っ直ぐ。時に自分の願望が叶えられないシーンがあったとしても、周囲にむやみに傷つけることはしない。だからこそ、その姿を見て、心の底から応援し幸せを願いたくなる。

途中途中でやきもきすることがなく、深い安心感に浸りながら観ることのできるドラマなのだと思う。

多角的に見える世界

正反対で、2人で1つのようなウンとヨンス。そして彼らを見つめるジウン。さらに3人を見つめる、NJや会社の先輩・後輩、家族たち。ある視点から見ると物凄く幸せな世界は、別の視点から見ると物凄く切なかったりする。その視点の切り替えが各話で上手く散りばめられているからこそ、様々な立場に立って感情移入してしまうのだと思う。お願いだから最終的には全員笑っていてほしい、と願ってしまうのは私だけではないはず。

締めくくりのエピローグ

本作の楽しみの一つといえば、各話の最後に入るエピローグ。本編では描かれない、もう一段作品の理解を深めてくれるような1シーンが描いているのだが、それがとても良い。後出しというよりはタネ明かしに近く、観るとさらに心がモフモフする。そして、時に声が漏れ出そうなシーンもあり、各話を完結する意味でも是非最後まで楽しんで欲しいとおすすめしたくなるほどだ。

おわりに

そのほかにも...ウンの服装と部屋のインテリアがツボすぎる、幸せを願いたくなるジウンなど書き足りないことはあるのだけれども、キリがないのでここまでに笑。

いつの間にか習慣化した片思いを終わらせようと向き合うジウン。光のない夜の世界から目覚めようとするウン。そして彼らと交差する登場人物たち。それぞれの”はじまり”と”おわり”が動き出す後半も、大切に楽しみたいと思う。

読んでくださり、ありがとうございました。