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「怪獣詩集1 ゼットン」

誕生日プレゼントにはアークベリアルが欲しいと息子が言う
アークベリアルとは
「カイザーベリアルがマレブランデスに貯蔵してあった大量のエメラル鉱石のエネルギーを吸収して凶暴化し、超巨大怪獣への変貌を遂げた姿」(Wikipediaより)
とのことだが
カイザーベリアルとは
そもそもベリアルとは
の話よりも前に
まずはゼットンから始めよう

私の実家にゼットンがやってきたのは二十年くらい前のことだ
父が職場の飲み会の帰りにゲームセンターの景品で取ったものだという
ソフビではなく硬い材質の大きなフィギュアで
父も扱いに困り私にくれた
人形で遊ぶ歳ではなかったが気に入り
以来ゼットンは私の部屋に住み着いた
結婚して家を出る時にもついてきた

娘が赤ん坊の頃にゼットンと撮った写真がある
女の子と怪獣は相性が良くないせいか
こわばった表情を見せていた

息子が生まれるとこちらはゼットンを恐れる様子もなく
他のぬいぐるみと変わらぬ扱いを受けていた
後に買った小さなソフビ製のゼットンと並べて
親子ごっこをしたりした

時は流れ
近所にできたリサイクルショップで
息子は怪獣たちのソフビ人形と出会ってしまった
以来少しずつ我が家に怪獣人形たちが増えていくことになる

しかしゼットンはその巨大さと動かない関節ゆえに役割が違う
「ゼットン先生」として、怪獣たち(それと少しのウルトラマンたち)の教師役となる
授業を始めるゼットン先生は
後ろから飛び蹴りを食らったり
時にはうんこをかけられたりする

ひときわ巨大であるのに、強さの数値は弱めに設定されている
「ベリアルの攻撃力は一億二千万で、ゼットン先生は百」
後で買った小さなゼットンは、怪獣ごっこ遊びに混ぜてもらえず
おもちゃ箱の中に残されたままのことも多い

先日、ウルトラマンやゼットンのデザインをした
成田亨という彫刻家の方の「特撮と怪獣」という本を読んだ
彼は怪獣をデザインする際に原則を三つ作ったという
一、過去にいた、または現存する動物をそのまま作らない。
二、過去の人類が考えた人間と動物、動物と動物の同存化合成表現の技術は使うが、奇形化はしない。つまり、頭が二つだの、一つの胴に獅子と竜と羊の首がつくだのといったことはしない。
三、体に傷をつけたり、傷跡をつけたり、血を流したりはしない。
(成田亨 特撮と怪獣 わが造形美術 より要約抜粋)

「ウルトラマン」「ウルトラマンセブン」を作っていた頃は
週一ペースで新しい怪獣をデザインしていたという
ゼットンは主人公のウルトラマンを倒す強い怪獣という依頼を受け
レッドキングの質感や強く見える角をつけるとかの工夫がなされた
決して生徒から飛び蹴りされるためのデザインではなかった

親子揃ってウルトラマンを見ていないのに
毎日のように怪獣の人形たちで遊んでいる
まずはゼットンの話から始めてみた
次に語るべき怪獣たちはまだまだ棚の上に並んでいる
巨大なゼットンはそこには入れず
ぬいぐるみたちの積み上げられているテントの中に放り込まれている


高さ30cmくらいのゼットン先生

(了)

昔のように詩を書きたいなと思いつつ、昔のような詩は書けないな、と思っていたところ、「最近ずっと遊んでいる怪獣たちのことを書けばいいんじゃないか」と思って始めた次第。怪獣の紹介と彼らに与えられた役割だけでも詩になっていくような気がして。

シロクマ文芸部「誕生日」とも絡めてみました。




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