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人間椅子推し短歌集

「人間椅子」とは2023年時点で結成36年になる、日本のハードロック/ヘヴィメタルバンドである。バンド名の由来は江戸川乱歩の小説「人間椅子」から。

 人間椅子の名前は中学時代から知ってはいたが、聴く機会のないまま過ごしてきた。X JAPAN-ブルーハーツ-ブリティッシュ・ハードロック-洋楽HM/HR-ガレージロック-などといった音楽変遷の中で、いくらでも触れる機会があったであろうに、奇跡的に人間椅子に出会わないままで人生の大半を過ごしてきた。

 それが変わったのは2019年、音楽サブスク、Spotifyを始めていた私は、昔聴いていたアーティストたちが再結成していたり、長く現役を続けていたりするのを再発見しながら「名前だけ知ってるけど聴いたことのない人たちを聴いてみよう」と思いたち、人間椅子を聴いた。ちょうど「無情のスキャット」が海外でもブレイクした頃で、私もイントロを聴いた瞬間から「どうしてこれまで知らなかったんだ!」と驚愕した。ブラック・サバス、メタリカ、日本文学、それらの最も自分の好きな要素を取り出してぐつぐつと煮込んだような音楽と世界観。

「無情のスキャット」での「シャバダバディア、シャバダバディア、シャバダバディア、ダバ、ダ、バー」という歌詞は、幼い子どもたちにも響き、2021年に出た「杜子春」のMVを見ながら、子どもたちが合わせて歌う動画も撮ったりした。

 そして2023年、23枚目となるアルバム「色即是空」のリリース情報が流れていた頃、私は諸事情により暗く沈む世界に落ち込んでいた。ニューアルバムの発売日までは何とか生きていようと奮い立ち、解禁日の早朝にイヤホンを装着して「色即是空」を聴き続けた。一曲目のタイトルは「さらば世界」であったが、まだまだ私の世界は続いている。

 以下、人間椅子の楽曲を題材にして作った短歌及びそれに付随する短文。公式で動画のある曲のみを選んでいる。


新曲を聴くまで死ぬのは止めようか「さらば世界」で続いた世界

 いろいろ行き詰まって何度目かの死を考えていたが、人間椅子の新譜が出る9/6までは生きていようと決めていた。解禁日に「さらば世界」を聴いて以来、私も世界も終わらずにまだ続いている。


白塗りでベースを弾けるお坊様おられましたら「芋虫」を是非

 エンジントラブルを起こした機内で懇願するCAのセリフ。偶然乗り合わせた鈴木研一氏の弾く「芋虫」のイントロを聴いた機長はテンション爆上げで無事海面への胴体着陸を死傷者ゼロで成功させた。

*鈴木研一氏は人間椅子のベース/ボーカル。白塗りの化粧でお坊さんの出で立ち。


青森のねぷたのもんどり高校の球児は今年も校歌歌えず

 ナカジマ顧問の信念「上半身裸のユニフォーム、バットの代わりにドラムスティック」によりそもそも高野連に出禁を食らっているため。野球の練習はせずドラムを叩いてばかりなので、世界ドラムコンテンストでは三連覇中。

*ナカジマノブ氏は人間椅子のドラム/ボーカル。ノッてくるとすぐに上半身裸になる。高校の野球部顧問はしていない。


先程の「無情のスキャット」歌う子は無事にパパママ引き渡せました

 遊園地の迷子案内にて「三歳くらいの男の子、名前は言えず『シャバダバディア、シャバダバディア、パパ、マ、マー』と繰り返し歌っておられます」というアナウンスの後、無事両親引き取りに来たという説明。


地獄とも読み替えられる世界抜け少女は駆けたエデンへの道

 学校、家庭、街、世界、それら全てに「じごく」と振り仮名を当てた少女はそこから抜け出した。牧師が言っていたエデンへ向かうために、駆けた。世界から欠けた彼女の姿は、もう見えない。


悪い子は泣く子はいねがと聞いてくるなまはげの手に赤いSG

 なまはげの中身は和嶋慎治氏。SGは和嶋氏愛用のギターの名前。泣いている子がいたら優しい歌(「星空の導き」)を弾き語ってやり、悪い子がいたらおどろおどろしい歌を弾き語る(「地獄」など)。どちらでもなければ「なまはげ」。


立ち並ぶ命売りたち眺めつつバラババンバと踊れや歌え

 自らの命を売る者たちが立ち並ぶ通りを歩く。安く売る者、高く売りたがる者、壊れてしまった者、もういない者。横目で見ながらバラババンバと歌い、踊る。本当に壊れているのは、あちらか、こちらか。


今は亡き父母への呼びかけ増えていく誰に触れても死者かと思う

 亡くなった父母に向けて、杜子春のように何かにつけ呼びかけてしまう。こちらではまた金がなくなりました。周囲で命を落とす人が増えています。私もそちらに、などと。自ら歩めと、決めろと、返事が来る。金はこない。


愛ならばニルヴァーナの奥置いてきた重低音は億年続く

 涅槃の果てに愛を置いてきた。二度と戻れぬ境地に愛を捨ててきた。永遠に近い時間、重低音が響き続ける地でこれからも暮らすために。しかしまた愛は性懲りもなく胸に沸き起こる。鼓動が求めるようだ。

「#推し短歌」企画に参加しました。

和嶋慎治氏の自伝


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