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殺し屋に狙われ続ける「殺され屋」のルーツ

 最近シリーズ化した「殺され屋」が出てくる一連の作品がある。現在三作品。いぬいゆうたさんに気に入っていただき、朗読もしていただいている。

 主人公の特徴として、人の気持ちが分かってないとか、地の文と会話文を混ぜて遊ぶとか、「人間じゃない」と言われがちとか、そういうのがある。実は彼にはルーツがある。新都社で連載中の、曲を題材にして書く掌編小説集の中の、GLAY「HOWEVER」を取り上げた回。

 2021年の2月の作品。前職をまだ辞める予定もなかった頃。私とアルバイトの生意気な大学生ナツキとのやり取りを小説化している。同じ職場で働いていたナツキの幼馴染が、大学近くに引っ越すので辞めるのを、ナツキは全く知らされていなかったことについての話。

 明るく軽口を叩きまくるナツキの表情に、憂いが混じるようになったのはその頃からだった。
「そんな表情してませんけど」
 仕事は早いがその代わりに生意気な事ばかり言う。私の事を全然敬っていない。そもそも年長者に対する敬意というものがない。
「泥辺さん以外にはきちんとした口効いてますって」
 こんな性格のナツキの傍に俊太郎が親友として長年付き添っていたのには深い事情がある。幼い頃に重い病に冒された俊太郎は、奇跡的に適合者であったナツキからの生体肝移植により、一命を取りとめた。以来ナツキのどんな酷い言動にも行動にも、俊太郎だけは優しく接して来た。周囲に敵しか作らないナツキにとっての、唯一の味方であり続けた。
「それ、俺の紹介で俊太郎がこの会社に入った頃に、泥辺さんが捏造した噓エピソードですよね。まだ言ってたんですか。俺内蔵全部ありますよ」
 そんなナツキが仕事の最中にも関わらず、涙が止まらなくなり手を止めてしまう事を、誰が責められるだろう。
「手止めてませんって。泣いてませんって。第一俺が俊太郎辞める事を泥辺さんから初めて聞かされた時、驚く俺を見て爆笑してたじゃないですか」
 だってナツキの凹む顔を見ると面白くて。あと地の文と会話しないでくれるか。ルール違反だ。
「そっちにとっては小説でも、俺にとっては現実なんですよ!」

 そこに入ってきた後輩係長とのやり取り。

 他部署の人間も時々現場事務所を利用する。隣の部署の、私の元部下である後輩係長が入って来た。
「坂本さん、聞いて下さいよ」とナツキが私の爆笑を咎め、訴えている。
「ナツキ、諦めな。泥辺さんに人間の心なんてものはない。だから娘に『こころ』と名付けて、自分にないものを埋めたんだ。もはや人間ですらない」
 娘の命名理由は別にあるし、私は人間だ。
「泥辺さん、じゃあ『HOWEVER』歌って下さい」
 声量は控えめに、最後の大サビを歌うが高い声が出ないので失笑される。
「ね、そこで何ですぐに歌えるんですか。嫌だとか言わずに」


 周囲におもちゃにされているが、前職を辞したのは上層部とのあれこれなので、同僚たちに恨みは一切ない。

 もちろん「殺され屋」にある、結婚詐欺の過去とか女心を弄んだりとかの設定は私とは関係ない。ただし毎回、私が普段から思っているようなことを言わせたりしているので、ある意味私の哲学書ともなっている節がある。「読書の効果は何年も経ってからふと現れる」とか「食パンと水とサプリだけで生きていけると思ってた」とか「記念日の非日常による特別な幸福よりも、ささやかな幸福が続く日常を求める」とかそういう。

「殺され屋」と、それに相対する「殺し屋」を毎回書いていくのは楽しく、「これがキャラクターというものか」と思って、「小池一夫のキャラクター創造論」という本を読み始めたりしている。

 定型に陥ってもいけないので、書き方や展開もいろいろ変わっていったりするでしょうが、自身も書いていて楽しいのでまだ続くかと思います。お付き合いいただければ幸いです。


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