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【読書】喪失、そして再生と祝福の書【木皿泉】

泥棒猫です。
私はお気に入りの本は何度も読み返す派。
その時その時で、ハッとする箇所が違うので自分の精神状態が判るのも読書の良いところだと思う。

ここ数日で、木皿泉著の2冊を読んだ。
「昨夜(ゆうべ)のカレー、明日のパン」
「さざなみのよる」
どちらもドラマになっているのでご存じの方も多いと思う。
「昨夜の・・」はそのままのタイトルで、ストーリーも原作に忠実。
「さざなみの・・」は【富士ファミリー】というタイトルのドラマだ。【富士ファミリー】の続きとしての小説が「さざなみの・・」に当たる。
どちらも豪華キャストでドラマの方も最高だった。
けれど小説はもっといい。

短編集なのだけど、色んな人の視点で一つのストーリーを紡いでいる。ちょっとネタバレだけどザクっとストーリーを書きます。

「昨夜のカレー、明日のパン」
ギフとテツコの物語。
ギフはテツコにとっての義父。つまり夫の父親だ。天気予報士なのでテレビにも出るイケおじ風。テツコは7年前に夫を癌で亡くした後も義父と古い家に住んでいる。この二人の関係がなんともいい。息子を亡くした(もっと前に妻も亡くしてる)父親。若くして未亡人になってしまった妻。まだ20代後半なんだもの!
どちらも受け入れることなんかできない悲しみを抱えて、それでも生きている。だけどどこかおかしみがあり、そこが愛おしい。
周りの人たちもすごくいいのだ。
笑うことができなくなってしまったお隣の元・CAさん。テツコの恋人。ギフのまだ男を捨ててない感じ。全部が愛すべきキャラなので微笑ましくて、羨ましい。ドラマではギフを鹿賀丈史、テツコを仲里依紗、テツコの夫を星野源が演じていている。


「さざなみのよる」
小国ナスミ・享年43歳を取り巻く群像劇。富士山の見える場所でコンビニ?風のお店をやっている家の3人美人姉妹の次女、ナスミ。家族もその町も退屈すぎて飛び出したものの、自分がもうすぐ死ぬとなったら、やっぱり戻りたいのはその景色の中だった。
ナスミの夫、姉の鷹子、妹の月美。そして笑子ばあちゃん。ナスミを失う恐怖と闘い、失った後のやり切れなさを受け入れてそれでも日々生きている。
ドラマ富士ファミリーでは、鷹子を薬師丸ひろ子、ナスミを小泉今日子、月美をミムラ、笑子を片桐はいりが演じている。

どちらも死を扱っているのに、押し付けがましくなく希望に溢れている。
すごく面白くて笑ってしまうのに、読後なぜか泣いている。ドラマも何度観ても泣いてしまう。


大きな悲しみのあと、私は大好きな読書がしばらくできなくなっていた。文字が全然入ってこなかったのだ。
この2冊は、とてもいいリハビリになったと思う。随分前に読んだ時も泣いたけど、今の私がまた流す涙は、不思議と温かい感情の涙だった。
ああ、癒えてきているんだな、と思ったし、癒されていいんだなとも思った。


喪失、再生と祝福を。
生きてるとその繰り返しだし、たとえ私が死んでもその後もその繰り返しだよな。と思うとなんだかホッとする。

めちゃめちゃいい本です。秋の夜長に是非どうぞ❣️町ゆく人たち全部が愛おしくなります。


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