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50を過ぎれば死なない努力

「ちょっと芳しくありません」
掛かってきた電話に出ると先生からそう告げられた。

2020年1月。電話の相手は少し前に胃の内視鏡検査で診てもらった消化器専門の開業医。その時に「一応念のため」と採られた生体検査の結果が出ているのにボクが来院しないので電話で知らせてくれた。そういえば先週に検体の結果を聞きに行く予定にしていた事をすっかり忘れてたよ。

「いつ来られますか?」「なるべく早いほうが」などと促され、真っ白なカレンダーを横目で見ながら「明後日の金曜日に伺います」とボク。内容が内容だけに思わずビビってしまい謎の一日をおいて聞きに行くことにしたのが、一年前のちょうど今頃だった。

家から自転車で数分の所にある消化器内科へ買ったばかりのアウターを着込んで出かける。白地に真ん中には必要以上にでっかくGAPの赤い文字があって、なんか馬鹿みたいで気が進まない今日のような気分と曇天にはいい感じ。自転車をトロトロ漕ぎながら、先生に何を言われるのか不安だけが頭を駆け巡る。とにかく「芳しくない」らしい。

待合室でも「どうか大病でありませんように」と願いながら暫くして診察室へ。先生はモニターで画像をクリックしながら「結論から申しますと癌です」「食道癌です」と神妙なトーン(地声?)にも係わらず前置きも無くサラッと告げられた。え?それって患者本人には告げず家族に告げる病気ちゃうのん?と頭の中でドラマ仕立てに変換されてしまうぐらいパープリンな感じに一瞬でなった。

状況を飲み込めない脳みそに、
あろう事か定番のオヤジギャグが下りて来た。
「ガーーーーーーン!!!!」
・・・あぁ、不謹慎にも程がある。

そんな心情を知ってか知らずか、先生は慰めるように小学生が書くような図を描きながら症状を詳しく説明してくれた。先生によるとボクの場合は初期の段階でステージは「0〜1」だそうで、問題は食道という臓器が他の臓器と違い、外皮で覆われていないため粘膜内にとどまらずリンパ節に侵襲しあらゆる臓器に転移しやすく、癌の中でもとても厄介な病気だそうで、なる早な治療が必要だとのこと。そして推薦されたいくつかの専門病院からリクエストした病院を紹介してくれることとなった。まぁ病院に造詣などあるはずもなくただ住み家から近くだったので、旗の台にある大学病院を選択した。今から考えると近場の病院にして正解だったね。有明や築地なんて通うの大変だもの。その病院なら苦もなく毎日でも通える。

最後に先生は、出来る限りアルコールは控えるようにと忠告しながら「早期発見で良かったとポジティブに考えましょう」とクールな笑顔で診察室から送り出してくれた。テンキュー!センセ。(心の中でサムアップ)

帰りしなに白地にでっかく赤い字でGAPと書かれた男は自転車をキコキコ漕ぎながら、そうだよな、早期発見でまだ良い方だよ。相変わらず悪運が強いなと。ところで面倒臭がりなボクがどうして急に内視鏡検査を受ける気になったんだっけ?…そっか、この前の夏に大好きな幼なじみが悪性のリンパ腫で天国に旅だったからだ。いつでも元気に笑って会えるとばかり思ってたのに何だよ急に!って思った。「お前も気ぃ付けやー」って言われている様な気がして、20年ぶりぐらいに内視鏡検査を受ける事にしたんだった。

またアイツに助けられた。

コロナ禍で医療現場が逼迫しそうな兆候が見え始めた頃、食道の悪性腫瘍を取り除き、僅かな侵襲が認められたため、放射線と抗癌剤治療を施してもらい、なんとか5年後の生存率を80%まで上げてもらった。そうした状況で係わってくれたあらゆる方々に感謝しかないのだけども、これが仮に受診を半年先伸ばしにしていたらと考えると、もろもろ命運をかけたヤバイ状況に陥り悪運も尽きたであろうと思うとなおさらだ。

ほんに、アイツの分まで生きなあかんなぁ。。。なんて格好のいい理屈をほざいている場合やない。だからアルコールも一切断って半年に一度の定期検診を受診して死なない努力をするだけ。

ワイはまだ死にとうない。

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