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絶世の果実

リンゴは自分が絶世の果物だと思っていた。
その皮は赤く光り輝き、その肉は甘くみずみずしく、
その種は黒く怪しげに光っていた。
リンゴは自分を食べる者に幸せを与えると信じていた。
だからこそ、リンゴは人間たちに見つかることを望んでいた。
人間たちは、リンゴの放つ美しさと美味しさに惹かれて、
リンゴを我が物にしようとしていた。
しかし、リンゴは簡単には手に入らなかった。
リンゴは高い山の上にある森の奥深くにある木に実っていた。
その木はリンゴを守るために、棘や毒や罠を仕掛けていた。
人間たちはリンゴを手に入れるために、危険を冒して森に入る。
しかし多くの人間たちは、森の中でその毒牙にかかり命を落とした。
だがリンゴは、人間たちの死を悲しむことはなかった。
リンゴは、自分を食べる者にだけ幸せを与えると思っていたからだ。

やがて、リンゴを手に入れた人間が現れた。
その人間は、森の中のすべてのおぞましい障害を乗り越えて、
リンゴの木にたどり着いた。
その人間は、リンゴを見て感嘆の声をあげた。
リンゴは、その人間に食べられることを喜んだ。
リンゴは、その人間に自分のすべてを捧げることにした。
その人間は、リンゴを手に取って、噛みついた。
リンゴの肉は、その人間の口の中ですぐさま溶けて、
甘い汁が全体に流れた。
その人間は、リンゴの味に感動した。
リンゴは、その人間に幸せを与えたと思った。
しかし、その人間は、リンゴの種を飲み込んだとたんに、苦しみ始めた。
リンゴの種は、その人間の体の中で急速に発芽して、
根や枝や葉を伸ばしていった。
人間はリンゴの種に内側から食べられて、
この世からいなくなってしまった。
リンゴは、その人間の死を理解できなかった。
リンゴは、自分を食べる者に幸せを与えるはずだったのに、
なぜその人間は死んでしまったのだろうか。
リンゴは、自分が絶世の果物だと思っていた。
だがしかし、リンゴは自分が絶世の毒の側面もあるということを
知らなかったのだ。

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