新しいマフラー。
ちょうどセールが始まって少しお安くなってきた頃だし、と
今使っているマフラーがちょっとくたびれてきたので
新しいものを買おうとネットを眺めた。
何色にしようかなあ?
わくわくして画面を眺める。
美しいモデルさんが、凝った巻き方でマフラーを巻いているのを見ると
どれも素敵に見えてしまうのが困りものだ。
しかしながらあれもいいなあ、これもいいなあ、
と迷う時間は本当に楽しい。
あれこれ見ているうちにとあるマフラーに目がとまる。
ダイアナ妃を彷彿させるロイヤルブルー。
素敵だなあ。
なんてうっとりとして眺める。
しかし次の瞬間、
いや、いかん、いかん!
私の脳裏にパッと成人式の振袖の衣装合わせをする自分の姿が思い浮かんだ。
そう、それはおよそ30年前のとある呉服屋。
「こちらもお嬢さまにはお似合いだと思いますよ。」
これがいい!と早々にオレンジ寄りのブラウン&ゴールドの古典柄を選んだ私を尻目に、店員さんは目にも鮮やかな水色の振袖を持ってきた。
いやいやいや、これはないわ!
一瞥しただけで私にはわかった。
そう、私は全く寒色が似合わないのだ。(特にビビッドなヤツ)
そんなことは20年私に付き合ってきた私が一番よく知っている。
「私、水色は似合わないと思うんです・・・」
まだ若かった私は、控えめに申し出た。
しかし店員さんは譲らない。
「まあまあ、着てみたら案外お似合いということもありますし。」
半ば強引にその水色の振袖を羽織らされた。
私はおそるおそる鏡をのぞく。
するとそこにいたのは、成人式を迎える二十歳の女子・・・ではない。
これはまるで・・・・
そう!地方を営業で回る演歌歌手だ!
これはダメ、絶対ダメ!
と私は口をパクパクしながら全力で母に目力で訴える。
すると母はあろうことか、くくくっと柱の陰から
私を見て笑いをかみ殺していた。
ダメだ、母は全く戦力にはならない。
これは絶対阻止しなければ。
こんなんで写真を撮ったら、一生の黒歴史だー!
「すみません、やっぱりさっきのブラウンとゴールドの古典柄でお願いしたいです。」
と私は勇気を振り絞って言うと
「そうですかあ?こちらもお似合いだと思いますのにー。」
と母と同じぐらいの年代の店員さんはこちらも負けじと
さも残念そうな口ぶりで言う。
私は内心、こんなに似合わないのに?と毒づきながらも、
「ごめんなさい。でもさっきのお色が気に入ったので。」
と戦う。
ここで水色の振袖をごり押しされたら、末代までの恥さらしが確定だ。
やってくるのはバッドエンドの未来!
おそらく水色のお着物の方がお値段的にお高かったのか、店員さんに
「お似合いですよ~!」
と粘られたが、この後何ターンかの攻防戦の末、私はついに戦いに勝った。
やったよ、母~!
心の中はガッツポーズで母に目をやると、母は物陰でまだ笑っていた。
村田英雄かと思った。
どうやら母は私に村田英雄を重ねて、一人で笑いのツボにはまっていたらしい。
全くもってひどい話だ。
※村田英雄さんは昭和に活躍された演歌歌手です※
そんな記憶がよみがえり、私はもう一度マフラーを素敵に巻いたネットのモデルさんを眺める。
あぶない、あぶない。
もう少しでロイヤルブルーのマフラーを買うところだった。
青が似合うのはダイアナ妃とブルーマンと村田英雄だけ(笑)
私は穏やかな心でキャメル色のマフラーをポチっとした。
実家のリビングでは今日も20歳の私が微笑んでいる。
ブラウン&ゴールドの着物を着た私。
一歩間違ったら村田英雄になっていたかもしれない私の過去を
子供たちは知る由もない。
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