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61/365 【共感する力とは】 舞台「ねじまき鳥クロニクル」と、舞台という「趣向」について

2020年、感情noteを始めます。心が震えたお芝居や映画や本、訪れた場所といったコト録も続けますが、それらは言わばハレの日。その合間にある「普通」の毎日を、も少し書いてみたいのです。でも、何でも良いってなると、ちょっぴりハードルが高いんです。

その点、感情は毎日動くもの。喜怒哀楽のようにパッキリしたものもあるけれど、その隙間にある色とりどりのあわいも見つめてみる。良くも悪くも、なんかもやっとしたやつ。1日を振り返って、感情がなーんも沸かなかった、なんて日もあるかも知れません。それはそれで興味深い。

写真と140字だけの日もOK。ちゃんと整理できていなくてもOK。毎日書いていたら、何かが変わるかも知れないし、何も変わらないかも知れません。なーんも定かではありません。

でも、やってみたいをやってみる。できることなら、365日。意地っ張りな自分を見据えた上での、やってみようを始めます。

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苦痛は文字通り人の肉を焼きます。そしてみなさんは、そこにあるはずの痛みを、まるで我が事のように感じ取ることができます。それが共感する力です

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誰しも、心の奥底に様々な痛みを抱えて生きている。そしてそれを自分で癒す力も持っている。

でも、自分では癒しきれないほどの痛みだってある。その場合、その苦痛をなるべく感じないように、無意識の奥の奥の方に押し込めて、蓋をして、何事もなかったように毎日を過ごす。表面的には、穏やかに。

でも、その痛みは消えたわけではない。そしてある時突然、気づいてしまうのだ。知らないうちに、自分の全てがその痛みに侵食されていることに。

助けを求める声は届くのか。気づいて貰えるだろうか。淡々と悲鳴をあげる、謎の声の正体に。

小説未読だが、この座組は絶対に見逃すわけにはいかぬ!といそいそと何公演か取りまくった本公演。

訥々と紡がれる、朗読のようなセリフも多々あるが、物語の大筋を直感に訴えかけてくるのは、粛々と動く身体だ。

足音も立てず、息を荒げることもない。ゴム人間のように自由自在に動く身体たち。しかも軽やか。彼ら彼女らの周りに、重力は存在しない。

楽器でもピアニッシモが一番筋力を使うのと同じで、静かな動きの方が、筋力を必要とするはずなのに、皆、涼しい顔で滑るように踊る。さらりと、連続で。

するする踊り、お互いにまとわりつき、倒立姿勢も挟みながら淡々とセリフを吐き続けるって、一体どんな身体構造をしているんだろう。宇宙人なの?

意識と無意識、罪と罰、トラウマと人間関係のようなものが積み重なり、猫が失踪した直後に始まる冒頭から、猫が戻ってくるラストまでの間の夫婦の心の変遷が描かれていく。

圧巻。

観劇したのは、2/26の水曜日。終演後、ロビーでリピーターチケットを販売していた。右脳は飛びついたが、理性が私にブレーキをかけた。結局、追加公演チケットは買わなかった。

翌日、27日以降の東京、大阪公演全公演キャンセルが発表された。私が見たのは、事実上の千秋楽だったのだ。

演者は、それを事前に知っていただろうか。知っていたような気もする。薄々は感じていただろう。安倍首相の「要請」があったのが、その日の昼間で、夜公演の開幕は18時半だったのだから。

終演後にこれが千秋楽だった、と知るよりも、千秋楽だと分かった上で挑ませてあげたい。私が制作側にいたら、きっとそう考える。

この公演以外でも多くの舞台が中止になっている。多くの人が心血を注いで作ってきたものが、この世に出る前に無くなってしまう。それがとても苦しい。無関係な私ですら苦しいんだから、当事者の心中、いかばかりか。

そんな時に、先日見た「天保12年のシェイクスピア」の高橋一生さんのメッセージを発見した。

もしかしたら世間では本当に悪い奴だと糾弾されてしまうような人も、どうしようもない事情でそうなってしまったのかもしれないと考えられる「想像力」を、改めてこの作品から頂きました

遠藤周作の「沈黙」のキチジローに、同じ思いを抱いたことがある。そしてそれは、現実を生きる私の戒めになり、原動力にもなっている。

「娯楽」はしばしば無駄なものとして扱われる。だが、本当にそうだろうか。衣食住以下のものだろうか。私はそうは思わない。衣食住のどれかが欠けていたとしても、人は娯楽を必要としてきた。豊作を願う踊りを舞い、音楽に癒され、物語という別世界に希望や救いを見出してきた。

娯楽は、人が人としてお互いを慈しみ、思い合う為に必要な想像力を育む為に不可欠なものだ。そしてお芝居の場とは「そういった想像力を共有するための場所」なのだ。

こういう優しい場がある。思いを語る人がいる。

だからエンタがやめられない。



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