違いがあるからこそ、愛おしいんだ。
私には、小学生で年子の娘達がいる。
長女は絵に書いたような優等生タイプだ。勉強も出来て、面倒みが良い。先生からの信頼も厚く、よく懇談会では「長女ちゃんはこれからリーダーとしてみんなを引っ張っていく存在になると思います」と言われた。誰に対しても優しく、三人の妹と弟達も長女のことが大好きだ。学校では真面目な様子だけれど、家では兄弟のなかで一番にはっちゃける子だ。すごく、バランスが良い子だなぁと我が子ながら思う。実はちょっとドジなところがあるのも可愛らしい。
次女は、とてもマイペースな子。のんびりとしていて、勉強はちょっと苦手。でも、絵を描くことが大好きで時間があればいつでも絵を描いている。絵を描くという共通の趣味で、クラスでも何人ものお友達がいるらしい。毎日、お友達とお絵描きをした自由帳を見せてくれる。次女も長女と同じように優しい子で、いつもニコニコしている次女の周りは和やかな空気が漂っている。誰に対しても素直でいられる次女のことが羨ましく思う。
当たり前だが、私はこのタイプが違う娘達のことが大好きだ。長女が一歳になって少し経った頃に次女が生まれた。私は、長女と次女の成長と共に母親として成長してきたと思っている。
年子で同姓である長女と次女はなにかと比べられることが多い。それは身内の中でもそうだし、学校の先生やお友達のお母さんもそうだ。そしてそれは、なにかとやれば何でも出来てしまう長女が常に褒められるというものだった。
「お姉ちゃんは勉強出来るね」
「お姉ちゃんはしっかりしてるね」
お姉ちゃん"は"ってなんだろうっていつも思う。長女が褒められることは素直に嬉しいし、親の私から見てもびっくりするぐらい出来た子だ。もちろん、褒められたら「ありがとうございます」とお礼を言う。でも、ずっと心の中がモヤモヤとするのだ。
反対に、次女が褒められることもある。
「次女ちゃんはとても優しいね」
でも、次の言葉は大抵、「お姉ちゃんも優しいししっかりしてるもんね」と言われるのだ。なんだよ、そこは次女を褒めるだけでいいでしょうといつも思う。長女が褒められるときはそんなことないのに。
この些細な違いが、母親である私の心の中で違和感として残り続けている。
私にも、年子の弟と年の離れた弟がいた。年子である弟とはもちろん比べられるし、年の離れた妹とまで私は比べられ続けた。
「弟くんや妹ちゃんは細いのに、お姉ちゃんはぽっちゃりだね」
「妹は勉強出来るのに、姉であるあなたはどれだけ勉強してもだめだね」
たくさんたくさん、比べられた。比べられて、「私は出来ない子なんだ、だめな子なんだ」と心がしょんぼりしていくのを覚えている。そしてその心は、どれだけの褒め言葉をもらっても簡単に元に戻ってはくれなかった。どれだけ褒められても、今でも私は私に自信が持てないでいる。
自分を好きになるには、自分自身に対する自信が必要だ。私は、子供たちにはなによりも自分自身を好きになってもらいたいと思っている。だから、そのための自信を付けて欲しい。
私は、長女と次女を比べたくない。
つい先日、娘達が学校で受けた学力テストの結果を持って帰ってきた。一学年の差はあれど、結果は分かっていた。長女は国語・算数どちらとも平均点より高い点数で「よくできました」判定。次女は国語・算数どちらとも平均点並の点数で「がんばりました」判定だった。この結果を見て、次女が俯いた。
「私なんか、長女ちゃんと比べて全然出来ないもん」
すると、すかさず長女が口を開く。
「いやいや、そんなことないよ。もう次女ちゃんのほうが出来てることにしよう?」
この会話を聞いて、私は「ちょっと待って」と二人に声をかけた。
「長女ちゃんが成績良いのは事実で、それは長女ちゃんの日頃の努力があってのこと。他人に合わせるために、自分の頑張りを無しにするのは良くないことだよ。素直に、喜べばいい。良く頑張ったね。あと、次女ちゃんを気遣ってくれたんだよね、ありがとう」
うん、と長女は頷く。
「次女ちゃんも、良く頑張ったね。長女ちゃんにも得意なものがあるように、次女ちゃんも得意なものがあるよ。次女ちゃんは絵が上手でしょう。他人と比べて、自分が出来ないところを見て落ち込まなくてもいいよ。私なんか...は悲しい言葉だよ」
「そうなの?」
「うん。ママは、どんな長女ちゃんでも次女ちゃんでも大好きで大切。だから、ママは二人を比べたくなんかないよ。それに、私なんか...なんて言わないで、自分の得意なことを伸ばして楽しく笑っていて欲しいな。それに、比べるなら過去の自分とにしよう」
「うん!分かった!」と娘達は明るい笑顔になって、それぞれの部屋に戻っていった。その後ろ姿を見て、私が話したことが少しでも心に残ってくれていたらと願う。きっと、子供たちの今の環境では他人と比べないこと自体が難しいんだろう。大人社会でもそうだけれど、みんなそれぞれ、良いところも悪いところもある。
違いがあるからこそ、愛おしいんだ。そう思えたら、きっと今よりも優しい社会になれるのに。
またこの日みたいに、他人と自分を比べて喜んだり落ち込んだりするんだろう。それはきっと娘達が大人になってからも続く。そんなときに、私の言葉が娘達のことを少しでも守ってくれますように。
そして私も、そうやって生きていきたいな。
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