山形の庄内地方に天奏寺という寺がある。
　田舎によくあるタイプの、集落の墓地があり、隣に寺のお堂があるというところだ。
　歴史が古いとか、有名な仏像があるとか、そのような類のものは無いのだが、梅雨時になると集落の者達は、ここを訪れて賑やかになる。

　というのも、ここの寺のお堂の周りが少々面白い構造になっているのだ。
　お堂の周りには、雨水の排水のための甕が地中に埋められ、その甕の大きさが段階的に異なって作られているため、雨が降ると様々な音が地中から響くのだ。

　水琴窟を利用したものだが、作った当時の住職が、かなりの工夫家だったようで、その響きは自然のハーモニーそのもので、不思議な音色が境内に響く。
　小さなお寺なので、集落以外の者で知るものは少ない。
　まさに、そこに住む者の特権だろう。

（ここまでで10分）