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【ふしぎ旅】行塚の大ケヤキ

 新潟県新潟市(旧潟東村)の県道218号沿いに、大木がある。行塚の大ケヤキと言われ、
 次のように伝えられている

 後奈良天皇の天文の始めに又佐エ門なる人が植えたと称される。始め二本植えられておったが次第に密着し恰も一本の木の如くになった。
 百七十年前の中之口川の洪水で一本が枯れ残った欅が枯れ木を抱えこんで益々繁茂し通行人のよき休場所となっている。平野地帯でこれ程の大樹は珍しく何時のころからか神木として崇められてきた。
 行塚の名のおこりは、この地方に流行した悪疫の退散の為、行人が自ら生き埋めとなり、里人を救った土地といわれている。
幾百年間、自然、文化、国勢の激しい変遷を見て来た大欅の口あらば物語ってもらいたい。                                      

潟東村教育委員会”紹介看板”
行塚の大欅 説明看板

 後奈良天皇は15世紀終わりから16世紀中ごろの天皇なので、時代としては戦国時代であろうか。
 疫病退散や、その他の災厄退散を祈願して、自ら仏となる即身仏を伝える、行人の塚の話は、全国各地にあり、この話もその一つである。
 この話が独自性を持っているのは、そこに大木が植えられ、非常に目立つということだろう。

行塚の大欅

 行人塚、入定塚と呼ばれるものは多くある。
 即身仏として、取り出されるものもあるが、伝説では、そのまま塚の中で読経して、声が次第に聞こえなくなり、そのまま、その場で仏となるものも多い。
 塚や塔などが建てられればよいが、中にはただ土が盛り上げられただけのもの、空き地として風雨にさらされているものもある。
 そのような中において、この欅は、塚の目印にしては、あまりにも目立ちすぎている。
 むしろ、この欅に自然の神よりの大きな力があると感じ、その力を拝借しようと、そこで入定したのでは、と思わせるほどだ。

行塚の大欅

 そもそも、行人の塚というのも言い伝えであるので、この欅の持つ力は、行人の祈祷の力に匹敵すると考え、そのような伝承となったということも考えられなくはない。

行塚 地蔵様

 欅の周囲には地蔵が立ち、古くから根付いている信仰だと感じさせる。
 現在では、欅の大枝は、自重に耐えられないおそれがあり、補強しているが、かつては葉が密に茂り、夏の強い日差しをやわらげ、その下は暗いほど涼しく、疲れた身体にはありがたかったであろう。
 しかしそのような、炎天下の下にある薄暗い空間は、非日常的なものに強く感じられ、心に迷いがある時、一人のときなどは、怪異を感じやすい。
 白昼夢のようにウツラウツラする中で、虫の声や、近くの道の振動音など、地面の中から何やら音が聞こえれば、それが念仏のようにも感じられ、それがいつしか行人が入定したという話になったとも考えられる。

行塚 大欅

 その辺りに関しては、それこそ大欅に聞いてみないと分からないことではあるが。

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