江川紹子さん「新たな中国人排斥」発言の問題点


東電福島第1原発からの処理水が海洋放出されたことに伴い、中国は日本の水産物の輸入全面停止の措置をとった。日本には、中国発信を表す86で始まる番号から、複数の飲食店や公共施設などへの嫌がらせの電話が続くなどの迷惑行為が行われている。

そんな中、とある飲食店の店先に「中国人へ。当店の食材は全て福島県産です」と書かれた看板が掲出され、その画像がSNSで拡散され話題になっている。

中国人旅行客らに向けられたこの看板について江川さんは「新たな中国人排斥でしょう」「日本の利益にも逆行するのでは」と指摘した。

「これは、新たな中国人排斥でしょう。いま日本に来ている中国人は、理解者となって帰る可能性のある人たちで、そういう人々を敵視・排斥することは、日本の利益にも逆行するのでは」「むしろ、美味しいもんをいっぱい食べ、情報の自由を感じ、日本の人々への好感も抱いてお帰りいただくようにしたい」との考えを示した。

非科学的な根拠に基づく中国側の措置によって、両国民間に感情的に亀裂が入っているというのが現在の状態だと言えるだろう。しかし国家の措置に対して、その国民をひとまとめにして排除するのはよくないというのが江川さんの主張であり、少なくとも訪日している中国人は好きで来ている人がほとんどであろうから、肯定的な想いをもって帰ってもらう方がいいという点は江川さんが正しいように思う。

では何が問題なのか。それは「中国人排斥」という表現の仕方だ。まるで看板を掲載した飲食店が「差別や排除」をしているというような「香ばしい表現」をしていることに問題がある。
端的に、「訪日してくれてる中国人に日本のいいところを宣伝してもらう方が日本にトクだ」とだけ言えばいいものを「排斥」などという余計な表現を付け加えてしまうから、看板への理解派と反発派の対立を煽る形になってしまっている。今回は理解派が多いようなので良いが、有名ジャーナリストがイチ飲食店に対して「差別」だの「排除、排斥」だのの主体であるといい放つことはなかなか暴力的、攻撃的であると思うが江川さんはその点どう思っているのか。それこそ言論空間、それどころか社会からの「排除、排斥」招きかねない。

ネットで多くの理解派が言うように、食べた後で
トラブルにならないように先に行っておくという現実的な対処であるということを江川さんはもちろん理解しているはずなのになぜこのような発言なのか。
現実的な対処よりも「国籍や民族で個々の人を一括りにしてはならない」という普遍的な理念に一見して反する表現に脊髄反射してしまったように思う。
「中国人へ」という表現がそもそも気に食わなかったのかもしれない。

なお、「イスラム教徒へ。食材に豚肉を使っております」というのと同じだと言う人もいるが、それは少し違うと思う。トラブル回避目的という論理としては同じだが、直近での社会的文脈が違いすぎる。今は中国が日本に敵対的な態度をとっていて、かつ日本側もそれを理解しているという状態で、今回の看板の表現はたしかに排斥的に機能するということはありうるのだ。
逆に、イスラムの人たちが団結して反日感情をもっているという認識は日本人の間に共有されてはいないだろう。

しかし、いわゆる左派言論人はこのような社会的文脈なるものを重視しすぎる。そして自分達以外は「差別の構造に鈍感だ」などと言い出し、現実的な対処を軽視する。「文脈」なるものも「現実的な対処」なるものもどちらも相対的なものなのだ。

江川さんの普段の発言はバランスが取れていて、新しい見方に気づかせてくれることも多い。「香ばしい表現」によって、お仲間が喜びそうなお決まりの構図に議論を持ち込むのではなく、そしてまた今回批判されたことを「愚かな大衆に攻撃された」などと思わず、今後言い方には気を付ければよいだけだ。
これからも江川さんに期待している。


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