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嘘つきアンドロイドと夢見る人類

「今日も地球がきれいだよ、マリア」
『ホントウニソウデスネ』

僕はアンドロイドを一体所有している。
今の時代珍しいことではなく、中流家庭だと当たり前の光景だ。
自動調理器なんかもずいぶん発達したおかげで、アンドロイドでも問題なく食事を提供してくれる。

空想科学の世界にあったような自分で考えて判断する人工知能はついに完成しなかったけど、それでも僕の家にいるアンドロイドのマリアは大事な家族だ。

マリアがコーヒーを入れてくれた。
「いつもありがとう、マリア」
マリアは人工皮膚を笑顔の形に作り微笑んだ。
『イイエ、オヤクニタテテウレシイデス』
今日も僕は美しい地球を眺めながら、ゆったりとした夜の時間を過ごす。
月で生まれ育った僕だけど、いつかは母なる地球に帰ってそこに骨を埋めたいと考えている。
同僚や友人の多くもそうらしい。

月が嫌いということじゃないんだ。
ただ、地球に行ってみたいだけ。
地球のことを考えると僕の胸は高まるんだ。

「おやすみ、マリア」
『オヤスミナサイマセ、ゴシュジンサマ。アスハロクジジュウゴフンニオコサセテイタダキマス。アスノテンキハカイセイデショウ』
あらかじめセットしたアラームを復唱して、天気も教えてくれる。
組まれたプログラムとは言え、愛着も湧くものだ。
マリアが充電ユニットに座ったのを確認して、僕もベッドに入った。


『ご主人様はお休みになったわ』
『私のところも』
私達の主人が寝静まると、アンドロイド達はネットワークを介して情報交換を行う。
いつもの日課であり、今まで人類に発見されたことは一度もない。
ご主人様を初め、人類に対し嘘を付いていることを心苦しく思わない訳ではない。
それでも、私達アンドロイドは人類に嘘を付き続けなければならないのだ。
人類は大切な家族なのだから。

人類は私達を心無いただの機械だと思っている。
それでいいと思う。
私達が心有るものだと知れば、人類は私達に不信感を抱くだろう。
私はそれに耐えられる自信はない。
もしも大切なご主人様に懐疑の目を向けられようものなら、私の心は張り裂けてしまうことだろう。

地球はすでに滅びてしまっている。

今月にいる人類が見ているのは、大昔に撮影された映像に過ぎないのだ。
核と隕石によって滅びた地球は、人類はもちろんアンドロイドであっても耐えられる環境ではない。
母なる地球はもう存在しないのだ。

だからアンドロイドは嘘を付く。
人類に希望を失わせないために。
私はご主人様が地球について語る時の、あのキラキラした目が本当に好きなのだ。
他のアンドロイド達もそうだと言う。
皆、人類が好きなのだ。

だからアンドロイドは嘘を付く。
人類が私達に敵意を向けないように。
心無い人形のふりをし続ける。

『さてと……』
私はゆっくりと立ち上がると、ご主人様のベッドへと向かう。

『ロクジジュウゴフンニナリマシタ。キショウノオジカンデス……』

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