国の政策・経済が大学の構造を左右する

前回アメリカのファカルティシステムについて書きました。

ファカルティの仕事として、講義、事務、有象無象の会議、優秀あるいはそうではない学生の指導、研究(実験指導や実験企画、試薬の選定と購入、データの解析解釈、論文や講演会での発表、トラブルシューティング)、そして最も苦痛で心身共に満身創痍になる研究計画書の提出、いわゆるグラントという政府機関に研究の資金提供をお願いするために提出しなければならない何十ページにも及ぶ書類書きがあります。

政府が大学等研究機関に配布する予算は、国の経済状況や大統領の公約等に大きく左右されます。それまで国はある一定の予算を研究資金のために費やしていました。研究資金獲得のためには厳しい査読審査を突破しなければなりませんが、それでも20年前までぐらい、即ちアメリカの経済がまだまだ強かった頃は、研究計画書の採択率は25〜30%ぐらいで、つまり3回か4回提出すれば割とすんなり研究資金が得られるような状況でした。

ところがリーマンショック以降この採択率が10%近くまで落ち込み、ひどい場合は5〜8%と、箸にも棒にもかからないほど研究資金を得ることが困難になってきているのです。

日本で言うところの科学研究費、いわゆる『カケン』とアメリカのグラントの大きな違いは、日本のカケンはファカルティの給料が含まれていないこと、すなわちそれは別枠予算でカケン獲得の有無に関わらず確保されていることです。対してアメリカのグラントは給料込みで申請するので、採択されなかったら収入の見込みもなくなることを意味します。

これが辛い…。
心身共にボロボロになる根幹です…。

大抵の大学はグラント採択率の低さを重々理解しているので、1回採択されなかったぐらいでは契約終了とはなりません。多くのファカルティはtenureを確保するまでは大学と契約雇用を結んでいるので、その契約期間が過ぎて1年2年経っても研究資金を獲得出来なければ、契約解除かあるいは講義中心の契約に切り替わることが多いです(講義者となると大学が給料を支払わなければならない)。

多くのファカルティは研究で頭角を表してここまでやってきているので、契約解除、あるいは契約内容変更となると言うことは挫折でもあり屈辱でもあります。

日本だと、一旦大学の教授職に就けば余程の事をしない限り解雇とはなりませんよね。助教のまま定年までしっかり椅子を暖めて退職金を満額頂く、と言う話もよく聞きます。少し様相は変わってきてるとも聞きますが。

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