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犬は遠吠えをする。影は永遠に追ってくる。:萩原朔太郎について

おはようございます。月に一度の別冊夢想ハウス.にこにこです。

9/22(金)の朗読では萩原朔太郎の詩を読みました。
主に「月に吠える」より序文と抜粋したいくつかの作品、そして「宿命」より「死なない蛸」。
始めは「純情小曲集」「青猫」からも何作品か…と思っていたのですが、「月に吠える」の序文がすごく好きだったので絞ってみたよ。

私が購入したのはちくま日本文学全集
寺山修司も持っているんだけどこのシリーズ好き!ルビが読みやすいし、なんとなく珍しい作品が入っている気がする。

巻末に寄せられた荒川洋治氏の解説にもあったが、「自転車日記」というエッセイがすごくいい。
読んだ詩には陰鬱な作品や神経症的イメージが繰り返し描かれるものも多数あったが、このエッセイには前回の室生犀星とのエピソードに垣間見たような温かさ、ユーモアがある。
ほかではあまり見かけない…と書かれていたのでこの本を選んだのはラッキーだったかも。

👆ここで毎月朗読してる📚


さあ私の心を射抜いた「月に吠える」序文。
本当に素晴らしいのでぜひ読んでもらいたい。
萩原朔太郎 月に吠える (aozora.gr.jp)

詩とはなにか?
かれはこう書く。

どんな場合にも、人が自己の感情を完全に表現しようと思つたら、それは容易のわざではない。この場合には言葉は何の役にもたたない。そこには音楽と詩があるばかりである。

萩原朔太郎『月に吠える 序』

人間はみなそれぞれに違った肉体と神経を持ち、本当の意味で感情を共有するということはない。人は一人一人では、いつも永久に、永久に、恐ろしい孤独
由緒正しき医者の家に生まれ、音楽と詩に傾倒し何度も落第を繰り返してきた萩原朔太郎。人一倍、孤独を感じて生きてきたのかもしれない。こんなエッセイも書いている。

優れた芸術は言葉で説明できないなにかを感知させてくれる。
音楽、詩はもちろんのこと、映画や演劇、小説や絵画もそうだと思う。
物語におけるストーリー展開の面白さなども重要な要素ではあるけれど、まさに台詞や表情を通して内部の核心が表出したとき、それを感知することができた観客は友と分かり合えたような、秘密を共有したような癒しを得る。
なんだか、まさにそれが芸術作品に触れたいと思う理由であるような気がする。

「人間は単位で生まれ単位として死んでいく」。
だが言語よりもずっと深いところで、一生のうちに知り合う術すらない遠い国、遠い時代の人たちと心を通わせることができるなら、「我々は永久に孤独ではない」。

月に吠える犬は、自分の影に怪しみ恐れて吠えるのである。疾患する犬の心に、月は青白い幽霊のやうな不吉の謎である。犬は遠吠えをする。
私は私自身の陰鬱な影を、月夜の地上に釘づけにしてしまひたい。影が、永久に私のあとを追つて来ないやうに。

萩原朔太郎『月に吠える』 序

こういうことを考えていると、映画『It Follows』を思い出した。
永遠につきまとってくる不吉の影はきっと消えない。影を釘付けにすることはできない。こちらが歩いている限りぴったりあとを追ってくる。
だけどその時どこかから、月に吠える犬の遠吠えが聞こえてくるのであれば、私は真の孤独ではない。
多少なりとも前を向いて歩いて行ける。


朗読後、「前回のエッセイと作風があまりに違って驚いた」という感想があって嬉しかった。
私は実は萩原朔太郎は詩の作風のイメージをはじめから持っていたので、室生犀星とのエピソードやエッセイに垣間見るユーモアの方が意外だったんだけど、この順番で読むと逆のギャップがあるよね。

寂しげでそら恐ろしい人体イメージや、急に登場する繊毛、貝の舌など顕微鏡サイズの神経症的な描写には不安になる。
かと思えば、「雲雀料理」など爽やかで美しい作品もある。

最後に読んだ「死なない蛸」など凄まじく、飢餓のあまり自分自身をすっかり食べてしまう蛸の話。ラスト一文には心がズッシリ重くなる。
だがどうしようもない鬱屈を抱え生きる人間にとってこの作品がとてつもない癒しになることもまた事実だと思う。
医師になるよりも多くの人を作品で救っているのではないだろうか?


最後に。萩原朔太郎の一生、そして「月に吠える」の凄さについて、おもしろく書いてあるnoteをみつけたので紹介するよ~。

文語から口語に、そして散文から自由詩に…という移り変わりがよくわかる例が挙げられている。
現代に生きる我々にとって、文語から口語へ、というのは単なる時代の変遷のように感じるけど、革命だった。こういう背景を知るのは面白いねっ。
いい加減に国語便覧を実家から取り寄せねば…。


さて次回は少し趣向を変えて、大~好きな怖い話に立ち返ります。
先日怪談ライブへ行って、やっぱり怖い話って最高やな!となったから。

10/20(金)21:00~葉山嘉樹『死屍を食う男』を読みます。
秋の夜長にひんやりと肝が冷える、どこかクラシックな香りのする奇妙な話を読みますよ。
それでは来月もよろしくね!

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