『AIファーストカンパニー(2023)』 読書メモ#3

本書では、AIを中心に添えた企業の特徴と留意すべき戦略について述べられている。
ここでのAIは"弱いAI"を指しており、2024年の感覚からすると少し古い話に聞こえるかもしれない。

企業は歴史的に、ビジネルモデルに合わせて規模、範囲、学習の目標を推進することで業績を伸ばしてきた。
しかし、これらは諸刃の剣でもある。規模や範囲が広がるにつれ、複雑化し、これまで以上にマネージメントが困難になるからである。そのため企業価値は単純にはスケールしない。

伝統的な大企業はこの制約を強く受けてきた。
縦割りアーキテクチャにその原因がある。縦割りはオランダ東インド会社から続く構造であり、分散した組織を束ねるうえでは有効なアーキテクチャであった。
大量生産大量消費の工業会社と相性が非常に良く、GM、マクドナルド、トヨタすべてこの構造を取る。
しかし成長とともに組織の増大する複雑さの不経済に悩まされるようになる。
オペレーションが複雑となり特定のプロセスでの渋滞や過剰採用による混乱、品質管理などに課題が出てくる。
成長は反応のスピードが制限され、機敏なコミュニケーションや調整が妨げられる。意思決定はそれぞれ個々の部門で行い、テクノロジーとデータは孤立した場所に綴じ込められて学習メリットが限定される。

AIファーストな企業が異なるのは、まさにこの部分である。
AIファーストな企業とは、デジタルネットワーク、アナリティクス、AIで形成されたビジネス環境のために構築された組織である。
人間間の調整コストが発生しないように設計された組織である。
統合型データ基盤を用いて、AI搭載アプリケーションを迅速に展開し、規模、範囲、学習において飛躍的に成長すできるように設計されている。

この新タイプの企業は、規模のメリットを受けやすく、不経済を受けにくい。
そのためこれまで以上に広大な範囲の製品・事業領域への進出を実現し、伝統的な企業よりも遥かに速い速度で学習し適応してきている。
このような企業が価値提供のクリティカルパスを変革しつつある。

Amazonやアントフィナンシャルが良い例であろう。規模はまだだがペロトンやオカドなども成功例として挙げられている。

組織の縦割り構造の問題は、web業界でも当初はそうであったようだ。
Amazonではそのことに危機感を持ったベゾスが2002年に号令を掛ける形でAIファーストな組織に変化した。
マイクロソフトはナデラがクラウドを会社の中心に据えることで変わることができた。
組織構造全体が変わる必要があり、組織全体の長が旗を振る必要がある。

AI時代における戦略では、ネットワーク分析が重要となる。

特に重要なのはネットワーク効果と学習効果である。
ネットワーク効果とは、ネットワーク内やネットワーク間の接続数を増やすことで付加される価値を示す。
学習効果は、同じネットワーク経由で流れるデータ量を増やすことで付加される価値を表す。

ネットワーク効果には直接的なものと間接的なものがある。
ユーザーがほかのユーザー数を重視するネットワークの場合、直接ネットワーク効果が働く。snsや電話が良い例である。
間接ネットワーク効果とは、買い手側が売り手側が同じネットワークにいることに価値を見出すタイプのものである。こちら側の方が効果が弱い。
UberやAirbnbはこちらに当てはまる。

マルチホーミングにも気をつけたい。マルチホーミングとは、競争力のある代替案の実行可能性を示す。要はクラスター間の乗り換えやすさである。

Uberはネットワーク分析をすると課題に直面していることがわかる。
Uberは直接ネットワーク効果が働かない。乗客にとって他の乗客が利用しているは何もメリットがない。
また、ネットワークがローカルである。
乗客と運転手双方がクリティカルマスに到達しないとサービスが成立しないが、場所ごとでそうなる必要がある。
Uberの学習効果は交通状況に応じた価格調整、需給予測などにつながる。しかし、持続的な収益性確保なら十分な規模であるかは定かでない。
さらに、乗客も運転手もほかのサービスに容易に乗り換え可能である。そのためにマルチホーミングの問題が出てきている。

本書では過去に有利なネットワークを構築しながらも滅びた数多くの企業たちへの分析はないことに注意したい。
本書だけでは過去に起きたことを全ては説明しない。

日本企業の表面的なDXがなぜ失敗するのかを説明する。
JTC経営者に読んでもらいたいところである。

AGIが中心となるこれからの時代においては、また新たな構造を有する組織が生まれてくるのであろう。
その時代にはどのような視点が重要となってくるのだろうか?

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