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記事一覧
怪談市場 第三十九話
『雪の足跡』
清水君(仮名)から、次のような話を聞いた。
それは高校2年の冬、日曜日の午前中だった。前の晩は夜更かしをしたため、いつもより遅く起きた清水君は、居間の炬燵で向かい合う両親を目にして不安を覚えた。なにかよくないことでもあったのか、声をひそめ、妙に深刻な顔で話し込んでいる。
「なんか、あったの?」
清水君が問いかけると、母親が内緒話を耳打ちするように答えた。
「どうやら親戚に不
怪談市場 第三十八話
『婆さんが飛んだ日』
柴田君(仮名)が中学時代に、いまは亡き祖父の正夫さん(仮名)から聴いた話である。
当時、柴田少年はバレーボール部に所属し、日々練習に励んでいた。学校ではもちろん、家でも独りでできる練習があり、自分用のボールを持っていた。使用しないときや長い距離を持ち運ぶときは空気を抜いておく。ある日、なにかの拍子に祖父の正夫さんが空気の抜けたバレーボールを触り、嫌な顔をして吐き捨てた。
怪談市場 第三十七話
『凍死と素麺』(ケイイチさん 2)
「俺はこれまでに2度、凍死の危機に直面した経験があるんだ」
山歩きが趣味のケイイチさん(仮名)は、そう思い出を語り始めた。
1度目は学生時代、山岳部のメンバーとの冬山登山中に、天候の急変に見舞われてビバークし、遭難しかけたとき。さいわい翌日には天候が回復し、仲間たちの介抱もあって、一時的な低体温症と軽度の凍傷程度で下山できた。
2度目は就職して数年、結婚
怪談市場 第三十六話
『アスリート金次郎』
D君は、とある地方の旧家で生まれ育った。
彼自身は自分と弟との2人兄弟だが、父親は弟四人、妹2人の7人兄弟である。年末年始ともなれば、独立した弟や、他家に嫁いだ妹たちが帰省し、家の中は一気に賑やかになる。D君にとっての伯父さんや伯母さんだ。従兄弟たちも同行するので遊び仲間も増える。D君にとっては大歓迎だ。
1年ぶりに再会した子供たちが広間でボードゲームやUNOに興じるう
怪談市場 特別編(R-10指定)
『ブルー・サンタクロース』 #Xmas2014
「サンタクロースには、赤いのと青いのがいるんだよ」
そう断言するのは、来春、小学校3年生になる透哉クン(仮名)です。
あれは、ちょうど1年前、クリスマスイブの夜に起きた出来事でした。
早々にベッドへもぐりこんだ透哉クンは、眠れないままサンタクロースを待ちわびていたのです。
(今夜ぐらい、嬉しいことがあってもいいじゃないか)
そんなふうに少
怪談市場 第三十五話
『旧道の息づかい』
地方都市で工場に勤務するNさんから、こんな話を聴いた。
その日は午後勤のシフトで、通常であれば22時にはあがれるはずだったが、運悪く残業を言い渡されたため、帰路に就いたときにはすでに日付が変わっていた。
車通勤のNさんは仕事場への行き帰り、5年ほど前に開通した片側2車線の広々としたバイパス道路を利用している。だがその夜は深夜の道路工事にぶつかり、警備員の誘導等に従って迂回
怪談市場 第三十四話
『穴ふたつ』(多岐川先生3)
「そんなの効かないわよ」
放課後のことだった。図書室で調べ物をしている最中に声をかけられ、エミさん(仮名)はかろうじて悲鳴を呑み込んだ。
本に集中しているところへ、気配もなく忍び寄った誰かに耳元で囁かれれば、驚いて当然だ。まして人目を忍び、他人を呪い殺す方法を調べていたのだから、動悸はなかなか治まるものではない。
声をかけてきたのは多岐川先生だった。
色白で
怪談市場 第三十三話
『川下りの夜』
12年前、間中君(仮名)が初めて買ったカヌーで川下りを試みた夜に遭遇した怪異である。
彼は中学のころから椎名誠や野田知佑のエッセイが大好きで、夏休みや連休にカヌー教室へ通うことが何よりの楽しみだった。高校卒業と同時に自動車免許を取り、デザイン関係の専門学校に通いながら必死にバイトして、ついに念願のカヌーを購入した。
当然すぐにでも水に浮かべたい。しかし遠出するには時間が足りな
怪談市場 第三十二話
『ロバのパン』(マー4)
年下の友人、マーが10年以上前に体験したお話し。
当時、警備会社でバイトをしていた彼は、親子ほども年の違う警備主任のFさん(仮名)と意気投合した。きっかけは趣味のブラックバス釣りである。休日はもちろん、仕事前、仕事終わり、下手をすると昼休みと、1日に2回も3回も連れ立って近所の野池や川に出向き、暇さえあれば2人でルアーを投げた。
とある休日、マーとFさんは県内でも1
怪談市場 第三十一話
『押し花』
マサエさん(仮名)が20年ほど前に体験した話である。
当時のマサエさんは、まだ結婚3年目。ご主人と関東地方某所の団地に住んでいた。
夫の勤め先は業績が順調、マサエさん自身も健康な長男を産み、育児に追われていた。夫婦仲もよく、絵に描いたような幸せな結婚生活を送っていた。
ただ一点だけ気がかりなことがあった。団地の同じ棟に、少々問題のある人物が住んでいたのだ。
自殺志願者である。
怪談市場 第二十九話
『サボテンの花』
叔母が亡くなって四十九日の朝、庭でサボテンの花が咲いた。
もう10年以上前に、叔母の家から株分けしてきたボテンだった。
法要が行われる叔母の家へ赴くと、庭先で親株のサボテンもまた、花を咲かせて出迎えてくれた。
僧侶の到着を待ちながら、集まった親類たちが長座卓を囲んでお茶を飲む。菓子鉢を見れば、煎餅や一口羊羹に交ざって柿の種の小袋が目にとまる。亡くなった叔母の好物だった。い
怪談市場 第二十八話
『天使さま』
物心ついた頃から小学4年生の秋まで、トモミさん(仮名)は時折、天使を目撃したそうだ。
「薄曇りの午後、空を見上げると、雲の切れ間から陽の光が筋になって射しこんだりして、綺麗じゃないですか」
トモミさんはうつむきがちに、上目づかいで語り始めた。彼女の言いたいことはわかる。確かに美しく、厳かな光景だ。雲間から放射状に降る幾筋もの光。西洋の宗教画では天使が舞っていたりする。そんな感想