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オリジナル・ウイズダム

(2000字)
今年最後の読了本は、「オリジナル・ウィズダム」だった。
マレーシアの原住民と共に暮らして発見した、本来の人間同士の社会と自然の関わり方の原点を見つめた本だ。
200ページの古式ゆかしい丁寧に描写が書かれた2001年出版の英文の本で、注釈が文の間に多いが、そのぶん情景の想像力が掻き立てられ、ゆっくり味わうようにして読めた。(オリジナルは1994年出版本)本の中身の時代は1960年から70年代か。自分の子供時代の古き良き日本の時代も思い出された。

古代の日本人の祖先も東南アジアから渡ってきた人だと歴史的に言われており、原初の日本社会もこういうお互いを思いやる優しさに溢れた社会だったのかなと思いを馳せながら読むことができた。

著者のロバート・ウルフ(本当はウォルフと発音、オオカミじゃないw)はオランダ人の両親の息子としてスマトラで育った。彼の父親は医者だった。ウルフは長じて西洋という支配的な文化から教育を受けるという不幸に見舞われた。そのおかげで、彼はスケジュール、目的地、不安に満ちた不自然な生活に備えるための訓練を受けた。彼の幼少時に育った荒野は覆され、彼の意識は万能の真実の世界から切り離されたのだ。

ウルフはヒーリングに興味があり、医者になりたいと思っていたが、第二次世界大戦により彼の計画は中断された。戦後、彼はアメリカで社会心理学者になり、多くの政府のプロジェクトに携わった。仕事には、のんびりとした生活を送っていたマレーシアの田舎の村々を何度も訪問することが含まれていた。マレーシアの原住民の人々は「柔らかく、優しく、礼儀正しい」人たちだった。村人たちは、「粗野で、騒々しく、周りに鈍感」になりがちな、中華系やインド系、そして白人系の都会の人々とは正反対だった。

マレーシアの精神病院を調べたウルフとは別の西洋人の研究者は、患者には白人、インド人、そして多くの中国人がいたが、当時の人口の半分を占めるマレー人はいなかった。マレーの村々は健全な共同体意識を持っていた。もちろん、マレー人にも精神を病んだ奇妙な人はいたが、彼らはその奇妙な人々の存在を受け入れていた。彼らを社会から切り離してコンクリートの病院に送り出すなんて考えたこともなかった。そして、誰もがその村の泥棒を知っていたが、誰も彼を警察に通報しなかった。なぜなら彼は今いるコミュニティに属していたからだ。マレー人はどんな人に対してもお互いに敬意を払い、安心して最後まで暮らせる社会を築いていたのだ。

また、ウルフは伝統的な治療師の知識を学び、記録しようと懸命に努力した。彼は、彼らの技術は数千年にわたる試行錯誤の末に証明された結果であると信じていた。ウルフが訪れた時は途方もない過去の叡智が永遠に失われる寸前だった。
彼は抗生物質が登場する前の時代を思い出した。西洋の医者は魔女の医者より少しだけ治療に優れていた。彼は、医師が「治癒」ではなく対処療法や延命医療を実践する現代の医療を嫌っていた。彼らは、たとえ生存期間が数週間または数か月延びても意味がないとしても、非常に高価な治療によって一時的に死を延期することに長けていた。少し前の時代は、精神の灯が薄れていく人々のほとんどは、安らかに向こう側に渡ることが許されていた。霊的知識の無い医療は狂気だ。

ある日、ウルフは人里離れた山林に住む狩猟採集民の部族、サンゴイについて知った。彼らとの出会いは、人生を変えるような一連の経験への扉を開き、ウルフにとって大きな癒しとなった。彼らは直感と内面の知識の達人だった。彼らは「物事は思考の外で知られている」という霊的な現実の中で生きていた。

彼らはお互いの暗黙の考えを知り、テレパシーでコミュニケーションを取っていた。彼らのシャーマンは時として将来の出来事を予見することができたのだ。午前中、サンゴイは前の夜に見た真実の霊的世界から仮の世にもたらされた夢について話し合った。いつか、ウォルフは夢について彼らに説明した。彼らがウルフに伝えたメッセージは、彼は家族の待つ家でウルフが必要とされているということだった。そして彼は家族のもとに戻り、子供が救急医療を受けたことを知ったのだ。

マレー人の社会で暮らす年月が経ち、ウルフは人間らしさが回復するにつれて、すっかり自分に自信を持つようになった。本来の人間であることは、今のように文明化されることよりもずっと健康的だった。それが彼のこの本のメッセージだ。自分の内面を知ることは難しいことではなく、私たちのありのままの姿なのだ。すべての人間が「ありのままのすべて」とのつながりを持つことができる。そのつながりは、私たちの中にあると。

今の人と人のつながりの希薄な社会で、厳しい人生修行をしながら生きて行くのは、本来の生き方を心の奥深くでは知っている私たち日本人の生き方では無いと思う。(了)

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