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格調高い車引と楽しいらくだ―初春の歌舞伎座第3部

第1部に続き、第3部について。

染五郎、ナイストライ!

まずは、車引。冒頭の梅王丸と桜丸とのやり取りは、それなりに長さがあるのでどうなるかと思ったが、染五郎は台詞をとても丁寧に発音しており、稽古の成果がしっかり行き届くようにと強く意識しているのがよく伝わってきた。声変わりで、裏声と地声の行き来が一部スムーズにいかないところはあったが、にもかかわらずトライするのは、あるべき口跡を今のうちから意識できていることの証左。歌舞伎以外のメディアの露出が増えているが(稀代の美少年!)、歌舞伎の稽古に懸命に取り組んでいることが伝わって来て、歌舞伎ファンとしてとても励まされる思いがした。

幸四郎、役者盛り!

対する幸四郎の梅王丸は、さすがの貫禄。これまでに観た車引の中で最も大きく重みのある梅王丸だったかもしれない。とはいえ、若気の至りのような血気盛んな勢いが削がれることは全くなく、むしろその勢いにも厚みを増したように思う。押し出しも非常に良いし、声色も、もともとの高さを活かすところは活かす、低く太く抑えるところは押さえると、自在にコントロールしてめりはりで魅せている印象。正に、乗りに乗っているという感じで、今、この人の梅王丸を観られて良かった、と強く思う。

廣太郎、成長の跡!

杉王丸は、廣太郎。3年前(高麗屋三代襲名)にも同じ役で観ているが、上手になったのがよく分かる。自信をつけたのか、立ち居振舞も口跡も以前より堂々としていて、観ていて気持ちがよい。

白鸚、大御所の格!

そして、白鸚。3列目で観たからか、想定していたよりもずっとずっと声量があってど迫力。台詞の聴きにくさもほとんどなく、歌舞伎俳優としての大きさや底力を見せつけられた。すごく見応えがあって、すばらしかった。

彌十郎、立派な国崩し!

彌十郎の時平も巨悪ゆえの古怪さが前面に出ており、かつ、国崩しとしての存在の大きさを感じさせる役作りで、さすがの一言。本当に観て良かったと思える車引だった。

松江、文句なしのMVP!

2幕目は、らくだ。大変面白かった。初日の生中継をテレビでは観ていたが、やはり生の芝居は全く別物だと実感。MVPは、なんといっても松江か。配役が出たときは、名人の片岡亀蔵じゃないのか…と思ったが、なかなかどうして松江のらくだも後々語り草になるのではないかと思わせられるほど巧かった。引きずられて動くところの不自然に見えない足の運びとか、冷たがられるところの粘っこい顔の寄せ方とか、生命力のないように見える顔の表情の作り方とか、細部までしっかり作りこまれていて感心した。

愛之助、妙技の際立つ自然さ!

次点は、愛之助。紙屑買の軽みが本当に自然だったし、半次を相手に怯えるところも、おかしみと自然なリアルさとが両立していてすばらしかった。生中継のときにはあった半沢直樹ネタは封印されていたが。とにかく、観るたびに、この人は芝居が巧いなぁと感心させられる。

芝翫、世話物の強み!

芝翫は、やはりこういう世話物が良い。江戸の粋が、素の状態から出てくるような上質な役作り。役によく合った威勢の良さややくざ者らしさが絶妙。これからもこういう役をもっとたくさんやってほしい。

左團次、リアルな江戸の親父っぷり!

あと、特筆すべきは左團次の大家。ややコミカルにデフォルメしているにもかかわらず、江戸の長屋には本当にこういう親父がいたんじゃないかと想像すると楽しくなるような説得力。これぞ年の功がなせる業なのだろうか。大時代っぽさもあるのだが、この演目に合わせているのか、くどいほどではなく、むしろ小気味の良さが際立つ。相手役の彌十郎の女房も見事。コミカルだけど、リアルに所帯じみていて、妙技を楽しませてもらった。また、直前に車引で時平公をやっているので、そのギャップも楽しめた。

橋三郎、うれしい活躍、これからもがんばれ!

うれしかったのは、橋三郎の丁稚。この人の端正な顔立ちは、しょうゆ顔のように見えて舞台でよく映えるなぁ、と前から思っていて注目しているのだが、今回は、舞台の真ん中であれだけたくさん台詞を与えられて、本当に良かった。まるで子役のように全く抑揚のない口跡は、かえって気を遣ったのだろうなと思うが、よくこなしいていた。これからももっともっと活躍してほしい。

梅花、一瞬にして「江戸」を作る名人芸!

最後に梅花。舞台上にいる時間は必ずしも長くないが、冒頭、この人がいるおかげでその場が一瞬にして江戸の長屋になるという感じのリアルさ。これは名人芸。正月から良いものを見せてもらった…と思わずため息。

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