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職人はかたまりの中に、すでに完成品を見ている

イタリアの彫刻家ミケランジェロは、大理石から彫像を彫る時、最初から形は見えていて、あとは余分なものを取り除くだけだという意味の言葉を残している。

木彫り職人・藤戸竹喜さんも、作品を作る上で事前にスケッチしたり、模型をつくったりすることがないという。どんな大作をつくるときも、粘土で試しに作ってみるなど一切しない。

大抵の職人は対象を見て、デッサンをして、構図を考えて、下絵を描いて、それから立体的な模型を作って、ようやく彫りに入るというステップを踏む。藤戸さんには、そうした工程が一切ない。

見て、考えてから彫る。そうして彫られた完成品には、どこから見ても形に狂いがない。
藤戸氏は彫る前から、木の中に彫るべきものが「見えている」という。
頭や胴体や尻尾が見えているから、余分なところを取り除けば彫るべきものが残る、ということなのだ。

ならば、当社、いまる井川商店の加工工場で働く従業員にも同じことが言える気がする。
彼らは魚のブロックを解体するのに、要求された個数を、ほぼ誤差なく切り分けてしまう。
4つと言われれば4つに、6切れと指定されれば見映えも重さも違わず、次々と切り分け作業をこなしていく。
しかも、余分を極力出さない点にも手抜かりはない。
彼らは一つの塊を見た瞬間、すでに分離された完成品が見えてしまっているのだろう。頭の中に、設計図が出来上がっているのだ。

職人にとって、それは奇跡でも何でもない。
彼らにとって日々変わらぬ当たり前の業務を、万全のコンディションを整え、淡々とこなして行くだけだ。

学ぶべき生き方は、意外と近くにあったりもする。