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現実を受け入れること(映画「FALL」)

「FALL」という映画を観た。

山でクライミング中に夫を落下事故で亡くした主人公が、親友に誘われて今は使われていない600メートルのテレビ塔に登るものの、頂上で突然、梯子が崩れ落ちて地上に戻れなくなってしまうという話。
スマホの電波は届かない(高すぎる)食料や水もなし(梯子が崩れるときにリュックも落とした)救助を呼ぼうにも周囲は荒野で誰もいない。
さて、二人は助かるのか。

こういう映画は、主人公が冒頭で家族や恋人を事故で亡くしてトラウマを抱えてるのがお約束ですね。
もう何回見たかしら、このパターン。飽きないわ~。

B級の低予算映画と思われるかもしれない。
なにせ100分の映画のほとんどが、地上から600メートル離れたテレビ塔のてっぺん、二人座っただけでぎちぎちの狭い面積、そこであーだこーだと救助を求めるために四苦八苦する二人のやり取りだけで進むのだ。
一発ネタみたいな映画ですね。

でも、とても面白かった。

脚本がよくできていて感心しました。
しっかりと伏線が張られていて、またその伏線がキレイなのだ。

実は、私もみていて一瞬「ん?」と思ったところがあったんです。
でも、600メートルのてっぺんに残され絶対絶命の大ピ~ンチ!というシチュエーションが、その違和感をすっと忘れさせてしまう。
だからこそ、ネタが明かされたとき「あぁ、あれはそうだったのか!」と忘れていた違和感をグイッと戻してくる。見事な回収でした。

それにしても、違和感って大事ですね。
違和感のしっぽを掴み続けるか否かって、人生においても重要なんじゃないかしら。私の場合はこの映画でもそうだけど、状況に呑まれてつい逃しちゃうのよね。ダメじゃん。

実は見終わったあとに気がついたんですが、服がぬれていました。
私ったら、すごく汗をかいてまして(恥)部屋が暑かったわけではありません。
それぐらいハラハラドキドキしたんです。ちなみに、私の濡れた服を触って「監督が大喜びしそう」と夫が笑ってました。
高所恐怖症ってわけではないんですが、私、しばらくスカイツリーとか遊びに行けないです。

主人公たちが登ると、老朽化したタワーが嫌な音をたてるのよ~(恐!怖!)
その音とともに螺子が緩んだり、外れたりするのをいちいちカメラがアップで撮る。そのアップの背後に、何も知らない主人公たちがもくもくと登り続ける姿がぼや~っと映る。
いやーっ、怖い怖い。

家族でみたんですが、娘が非常に怖がりまして。
「お母さん、怖いからお風呂一緒にはいって」と言い出しました(あんた、いくつやねん)

ところが、夫はそんな娘に真逆の反応。

「怖かったか?お父さんはすごく勇気をもらえたぞ」

うん、この反応。いかにも夫らしいわ。
あなたのそんなところが大好きよ。

夫の言う通り、すごく勇気がもらえる映画でもあります。
つらい現実に逃げ出したくなってる方におすすめしたい。

主人公は夫を事故で亡くし、それ以降、酒浸りの毎日を送ります。
一年経っても夫の死を受け入れられず、遺灰を埃だらけの部屋に置いたまま、夫のスマホに電話をかけたり、留守電を聞いたりして泣いてばかりの毎日です。
心配する父親が手を差し伸べても、はねのけてしまいます。
どうしても、今の自分の現実が受け入れられないんです。

さて、ネタバレになりますので、映画に興味のある方、以降は読まないようにお願いします。



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主人公は救助を呼ぶことに成功します。
成功した鍵は何か。

私は、主人公が現実を受け入れたからだと思うのです。

夫を事故で亡くした現実から逃げ続けた主人公。
そして塔のてっぺんでも、主人公は現実から目をそらし続けます。
でも、主人公はあることをきっかけに現実を受け入れざるおえなくなる。
そのきっかけが上手い。怖かったですけどね。ゾッとしました。

なんでもそうなんですが、立ち直るためのスタート地点は今の自分と向き合うこと、自分の現実を理解すること、だと思います。

当たり前やんと思われるかもしれませんが、実は人間、これがなかなかに難しい。
私も経験してますが、つらい現実にぶつかると人は逃げたり、頭の中で自分に都合よく解釈したりするんですよね。

私は子供時代から、現実を受け入れられない人たちをたくさん見てきました。子供ではなく大人に感じることが多かったです。
大人はなんやかんやと言い訳をつけて、現実を自分に都合よく歪めてしまうんだな、と思ってました。

ああいう弱い大人にはなりたくないと思っていた私ですが、実際は私もそんな大人になっていることが度々あります。
時間薬が効いて、傷が癒え、過去になって「あぁ、あのときはああだったわ」と、やっと冷静に現実を受け入れることも多い。

主人公が「私は逃げられない」と厳しい自分の現実をまるまる受け入れた瞬間、主人公の顔つきがガラリと変わります。
夫が「勇気をもらった」といいますが、その姿は、確かに強さ以外のなにものでもなかった。
そして、主人公は見事な生還を果たします。

結局、世の中、生き残れるのは強い人間ということかもしれませんね。

そう思うと、やっぱり怖い映画だわ。