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「time can wait」から「頑張る」ということを学ぶ

この記事を執筆している現在、あんなに暑かった夏が終わり、もう11月になってしまいました。年々月日が流れるのが速くなり、1年があっという間です。1年があっという間ということは、2年も3年もあっという間でしょう。ぼや~っとしている間に、時間は加速度を増して過ぎ去っていきます。残された時間はどんどん短くなるばかりです…。

ということで、今回は小田和正さんの「time can wait」という楽曲から、「頑張る」ということを学びたいと思います。

「time can wait」は1990年のアルバム「Far East Cafe」に収録されている曲です。このアルバムはオフコース解散後の小田さんの初アルバムで、実質的なソロ・デビューアルバムと言えるでしょう。それ以前にリリースされた2枚のアルバムは、オフコースのメンバーとしてのソロ・アルバムであったため、バンドでは出来難い企画的な要素や、実験的な試みがあったりもしたのですが、この「Far East Cafe」は、純粋なソロ・アーティストとしての意気込みや、これからやっていこうとする方向性が明確に示されていると思います。

この楽曲は、オフコースというバンドで培ったロック的なアプローチを、小田さん個人がソロ・アーティストとして昇華させた曲だと言えるでしょう。もうバンドとしての音を表現する必要が無くなったため、アレンジは非常に華やかでコーラスも重厚、機材の面でもバンド時代より進化し、トラックの制限などもほぼ無くなり、思ったことを思ったように表現出来たのではないかと思います。

時代的な背景もあり、基本的なサウンドメイクは打ち込みによるものですが、打ち込みが進化し、生音のシミュレーションとして存在出来るようになったのもこの頃です。簡単に言うと、それまでの打ち込みとは機械的なビートによるグルーヴを表現するためにあったものでしたが、この頃からはより生音に近くなり、生音の代替として成立出来るようになったのでした。小田さんは後に「打ち込みにするか生音にするか、どちらも選べる環境にあるのだとすれば、最終的にはその人のセンスで決まる」と語っています。

実はこの曲、前半のブラスはシンセサイザーによるシミュレーションですが、後半はその上に生音が重なってきます。聴感上は殆ど分からないのですが、曲が盛り上がってアンサンブルが増え、それぞれの音圧が上がると、生音のシミュレートでは音像が埋もれてしまうので、そうしたのではないでしょうか。シミュレートものに生音を重ねることで、音色のふくよかさがより深くなり、音の芯がくっきりと浮かぶようになるのです。「じゃあ最初から生音だけでいいじゃないか」と言われそうですが、それもまた違うのでしょう。それこそが新たなことを試みようとする、小田さんの野心なのです。

ギターのパートは非常にハードで、深いディストーションが施されています。こうしたロックなテイストこそ、小田和正というアーティストの真骨頂だとワタクシは思っております。ギターは今も小田さんサウンドを支えている佐橋佳幸さんで、初めてそのプレイを聴いた時、エンジニアのビル・シュネー氏が「本当に日本人が弾いているのか?」と聞いたといいます。今でこそ日本人プレイヤーも海外で活躍していますが、当時はまだまだ日本は欧米を追いかける立場であり、どこか属国的な感じがあったことは否めません。それを覆す佐橋氏のギタープレイは、世界に通用するものであったということなのでしょう。

そして歌詞の世界ですが、歌のテーマは実に小田さんらしいメッセージソングになっております。タイトルは「time can wait」ですが、歌詞の中には

「朝の光で今日が始まる 風の音を聞け 時は待ってくれない」

というフレーズがあります。「time can wait」というタイトルなのに、歌詞の中で「時は待ってくれない」と歌う矛盾。これはどういうことなのでしょうか。それを説明する箇所が後半に出てきます。

走り続けていても 歩いていても 
空を見上げてため息つくも それぞれの人生
ただ これだけはいつも忘れないで
夢を追いかける人のために 時は待ってる

「time can wait」作詞・作曲・編曲 小田和正

小田さんは努力の人です。「一生懸命頑張る」ということに、高い美意識があるのではないでしょうか。しかし「頑張れば必ず報われる」という訳ではないかもしれません。その点については、こうも歌っています。

たとえ夢を追いかけて 立ち尽くしても
ひとりにはならないさ 誰かが見てる

「time can wait」作詞・作曲・編曲 小田和正

要は「一生懸命頑張って夢を叶える」ということが重要なのではなく、「夢を叶えるために一生懸命頑張る」ということが重要なのだということなのでしょう。小田さんは「<time can wait>と、<time can't wait>は同じ意味だと思う」と語っていました。頑張りさえすれば、必ず何かが残る。そして、それを見届けてくれている人が必ずいる、というメッセージ。それは努力をし続けてきた小田さんだからこそ、放てるメッセージなのではないでしょうか。

昨今はすぐに結果を求められ、他者評価で自分の軸を測らなければならない時代のようです。しかし本来、そんなバカなことがあるはずがありません。個性の尊重と言いながら、周囲に忖度しなければならず、同調圧力を激しく求められている現実。日々の日常が以前よりとても窮屈に感じるのは、そうした理由からでしょう。「頑張る」ということが非常に気恥ずかしく、寧ろ悪であるかのように捉えられる時代ではありますが、今一度「頑張る」ということを考え直しても良いのではないかと思います。

自分が自分のために努力する。それはとても美しく、崇高なものではないでしょうか。それは誰かの基準で測られるものではなく、自分の気持ちを判断基準にして良いのです。他者と比較する必要などありません。この「time can wait」は、そんな自分のために頑張る人への応援歌です。日々頑張っている貴方に、更なる勇気と希望を与えてくれるでしょう。

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