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[11月第1週] DAOレポート Vol.42 |web3における「1→ 0 (ワン・トゥ・ゼロ)」の重要性とdYdX創業者アントニオの葛藤

dYdXチェーン(v4)がローンチして以降、イーサリアムからdYdXチェーンへのDYDXトークン移行が始まっており、既にイーサリアム基盤のDYDXトークン(ethDYDX)7570万枚が移行を完了。そのうち176万DYDXトークン以上がステーキングされた。現在はdYdXチェーンのアルファ(α)フェーズであり、ステーキングはdYdXチェーンが完全に分散化し、セキュリティを高める上で重要だ。

この間、v3までdYdXを名実ともに中央集権的な組織としてひっぱてきたdYdXトレーディング社のCEOでありdYdX創業者のアントニオ・ジュリアーノが、分散化にあたる創業者の姿勢について考察をしている。曰く、『「1→ 0 (ワン・トゥ・ゼロ)」は、「0→1 (ゼロ・トゥ・ワン)』と同じくらい重要だ」という主張について本稿は深掘りしたい。

アントニオは、dYdXの方針に関するこれまで全ての権限を持っていた。dYdXに新たなプロダクトを追加する、新しいトークンを上場させる、手数料収入の使い道、ハイヤリングなど、全ての決定に関する権限が彼に帰属していた。創業者であるアントニオが全てを決めるのは当然かと思うかもしれない。「dYdX」といえば、アントニオが所属するdYdXトレーディング社のことを指していた。

しかし、dYdXチェーンローンチ後、上記の状況は大きく変わった。既に以下のような組織がトレーディング社と併存しており、どれか一つが「dYdX」を指すというわけではなくなった。

現在、dYdX周りでは複数のエンティティが存在している。

  • dYdX Trading 開発企業。コードを書いて公開する。

  • dYdX  Foundation ガバナンスをサポート

  • Operations SubDAO インフラの立ち上げ

  • Grants SubDAO グラントの差配

今は「dYdX」とはプロジェクト全体を指す言葉になり、複数の組織がdYdXというプロジェクトを支えるという構図になった。

「1→ 0 (ワン・トゥ・ゼロ)」という隠れた葛藤

アントニオの立場を考えてみると、どうだろうか?かつては自分に帰属していた権限が文字通り分散化されて複数の組織や人々に移行することになった。これらは、彼が率いるトレーディング社の下部組織ではない。上記の組織は、すべてトレーディング社から独立した意思決定ができる。アントニオは、創業者にとって分散化を達成する上で必要な心理について以下のように説明する。

「あなたが成長するにつれ、あなたの周りであらゆることが起こります。 何が重要でないかはすぐに分かるようになるので、何にエネルギーを使う必要がないのかはすぐに判断できるようになります。 ただ、人間は完全に手放してゼロにすることには恐怖心を抱くものです。 しかし、それらを完全に手放さなければ、あなたが前に進むことはありません」

dYdX創業者Antonio Juliano

ここで重要なのは、中途半端に手放すのではなく完全に手放すことが重要。よく日本の創業者であるような「一線から退いていたが、事業を立て直すために復帰しました」といったことができなくなる。

「0→1 (ゼロ・トゥ・ワン)」 は、ピーター・ティールの著書のタイトルして有名で、スタートアップ界隈でよく聞く言葉で重要なのは間違いない。しかし、分散型プロジェクトにおいては、「1→ 0 (ワン・トゥ・ゼロ)」と同じくらい重要だというのがアントニオの主張だ。

アントニオは、過去1年半、Matt Mocharyというプロフェッショナルコーチをつけている。アメリカではCEOや経営者にコーチがついて経営者としての悩みや心理面でのサポートをすることは多い。Matt Mocharyは、コインベース創業者のブライアン・アームストロングのコーチをした経験もある。

アントニオがMattから学んだ1番の教訓は「Not motivated by fear( 恐怖に心を支配されるな)」だ。これが、良いプロダクトを作ることよりも宵はイアリングをすることよりも一番大切だと今では身に染みて感じているという。

権限を失うことへの恐怖に向き合うこと。恐怖は無視するものではなく、しっかりと対峙して、「恐怖に対してポジティブなフィーリングを持てるようにすること」が大事だという。詳しくはアントニオとMattのポッドキャストをお聞きいただけたらと思う。

dYdXチェーンローンチの舞台裏で、創業者アントニオの葛藤があったことをお伝えできたらと思う。育ててきたものを完全に手放して分散化すること、ゼロにすること、web3創業者にとって重要な資質になるかもしれない。

著者:大木 悠 (Hisashi Oki)/dYdX Foundation
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、テレビ東京のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。2018年に日本に帰国し、コインテレグラフジャパンの編集長を務めた。2020年12月にクラーケンジャパンの広報責任者に就任。2022年6月より現職。

トレジャリーデータ

DeepDAOによると、11月6日時点でDAOトレジャリーの総額は191億ドルと前週比で8.52%増加した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が167億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が27億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は890万人で、アクティブDAOユーザーは280万人だった。

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