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アックス第145号

Twitterでラジオ好きとして知ったドブリンさんがアックスで入選してデビューしたのと、漫画好きな人が拡散したのがきっかけでフォローした若草ヒヨスさんの作品を目当てに買ってみました。

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前身のガロは、子供の頃にノリ君という子が好きで。私もノリ君から、ねこぢるさん、つげ義春さんを教わって読んだっけ。

でも自分で買うのは随分遅れたなあ。

思ったよりも小ぶりで、独特の手触りの紙が気持ちいい。

ドブリンさんの「ぼくのお父さん」は、一見とても温かくホッコリする終わり方をしてるけど、母子の辛い過去がサラっと影を落としている。
暮らし向きは芳しくなさそうなところから始まって。寂しい男の子が居て、絵を描いている。僕は絵を描くのが好き、お母さんは一生懸命に働いてくれてて、将来のお仕事の事を話す親子の温度差があって、お父さんの絵を描くことに…そっからお父さんの顔がわからなくて、特徴を並べて具現化させて、最後に「僕」がお父さんになっているという終わり方。この流れが見事でした。
水は冷たいけど優しい川の流れを見るような、どっか懐かしくてちょっと寂しい、でもいい思い出と言えるような。小さな物語の良さ、が詰まった作品でした。

若草ヒヨスさんの「めだかの子」の第五話。
ここから急に読み始めたけれど、病院に行ってるライラックと呼ばれる(本当の名前は違うらしい)女の子と、喫茶店の長髪ボサボサお髭の男前。目つきが悪い。
最高。こういうオッサン、私は絶対なれないのだけれど、絵で見るのは大好き。実際に居ても近づけないし、たいがいイケ好かない職業か活動をしてるんで…絵で見るのが一番ですね。目つきの悪い不健康そうな長髪ボサボサ男前おじさんは。

女の子は病院からの帰り道、乗り過ごして見知らぬ町で途方に暮れる。
あの寂寥感と、猫を抱いてからの急展開。
夢に見た綺麗な人が目の前にいる。女の子は魔女なのだろうか。

何も知らずに読んだけど、自分が見ず知らずの町ですれ違う人を見るように、自然と引き込まれていました。とても静かで、寒くて、乾いているけど気持ちが動く漫画ですね。
バックナンバーを取り寄せようかと思ったけど、いつか単行本が出るぐらい応援して、その時に読めたらいいな。

ツージーQさんの「ぶどう園物語」第七回も面白かったです。
旅情、うらぶれた田舎の温泉ホテル、昭和のオッサン文化とバンドマンの若者
どことなく寂しく、空虚なムードが漂い続けている。軽薄な享楽と怠惰な日常の狭間を揺蕩うような作風が凄く心地よい作品でした。

松田光市さんの「モザイクの城」
狂っている町の狂っている人々、そして最後ついに狂った男。ずっと不安で不穏で、何かが起きそうなまま徐々にズレて狂って気が付いたら後戻り出来なくなっている。
モザイクが晴れたと思ったら、心がすりガラスのように濁っていた。

鈴木ミロさんの「星に願いを」
牧歌的なキャンプに河童が介入して、常に痛みや死の予感がしつつ、そこに男女二名を殺害した女が合流して巻き起こる物語。性器や局部を切り取った死体をさらにバラバラにする狂気と、ばかカッパと、踊る少年。流れ星に助けを求めても、彼女はきっと救われない。
子供に見つかり、死体に気付かれ、千円を渡して、踊るまでの流れが秀逸。
横で殺された男女が一緒になって澄ました顔で居るのも好きな絵面でした。

ざっと読んで目に留まったものを改めて読んで、感じたまま書きました。
定期購読しよ…!
ドブリンさんの漫画や、めだかの子、ぶどう園物語の続きも気になるし

まさか三十路も半ばになって、改めて青林工藝社の漫画を読みたい、読もうと思うだなんて。漸く良さが分かったし、触れるきっかけがあったことも含めて、こういう豊かな文化の間口が保たれていることってのは恵まれているなあと思わなくちゃならない。
娯楽も産業もお店も守るのは消費者だけど、消費者が守られてねえから表現者も何も食えなくなっちゃうんだよなあ。
でも、書くなり作るなり表現は続けていきたいよなあ。私もがんばろう。お願い流れ星…!

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