日本でオンライン授業を実現するためのステップ(前編)

コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、アメリカを含む諸外国では学校の授業がすでにオンラインへと移行しています。アメリカでは、ハーバード大学など東海岸の名門大学が3月中旬に移行を始めたのを皮切りに、すべての大学、小・中・高等学校、さらには幼稚園までもが授業をオンラインに切り替えました。

私の通う大学では、一週間の春休みを二週間に延長してオンライン移行のための準備期間とし、今週から本格的にすべての授業が再開されました。ほとんどの州で外出禁止令が出されており、大学の建物もほとんど閉鎖されているため、アメリカ人学生の大半は自宅に帰省、留学生も自分の国へ帰った人が多くいる状況です。私は大学の近くでシェアハウスをしているため、こちらに残っていますが、大学の建物に入ることはまずありません。

日本では、春休み期間中ということで主に休校という措置を取っているようです。しかし、状況が日に日に悪化している中で、東京の公立学校は新学期の始まりをGW明けまで遅らせるという対策を取らざるを得ないようです。アメリカやヨーロッパの状態を見る限り、さらに状況が悪化して休校が長引く可能性も大いにあるでしょう。

このような状況下では、日本でも授業をオンラインに移すことが必須にならざるを得ないと思われます。しかし、大学までずっと東京の公立学校に通ってきた私の経験からしても、日本の学校のシステムは授業をオンラインで行うレベルには程遠いというのが現状と思われます。私は中学校の頃からICT活用という言葉を幾度となく耳にしてきましたが、実際に学校で自分のパソコンが必要になった機会は大学に入るまで一度もありませんでした。

日本がオンライン教育の分野でここまで遅れてしまった原因はわかりませんが、今は学校を再開することが現実的にみて非常に難しい緊急事態です。一方で、このまま休校が続いた場合、授業の進捗に非常に大きな影響が出るだけでなく、家庭や塾などで教育を受ける機会に恵まれた生徒とそうでない生徒の格差が今以上に広がってしまいます。

ということで、今回はアメリカの大学でオンライン授業がほとんど滞りなく進められている経験に基づき、日本の学校で授業をオンラインに移行するためのステップをまとめてみました。あくまで一人の大学生なので、専門的な知識や現場の状況を知っているわけではありませんが、日本のオンライン教育のために少しでも力になれればと思います。特に、今このような状況で困っている学校の先生方の参考になれば何よりです。

アメリカの大学ではどうやっているか

コロナウイルス感染拡大の知らせを受け、私の大学では春休みを区切りに授業がオンラインへと移行する旨が全学生と教授に伝えられ、それから一週間の間に授業を担当している教授からそれぞれメールが送られました。授業ごとに多少の差はありますが、基本的には以下のような形をとることになりました。

1.授業はZoom(オンラインでミーティングができるサービス)を通したライブ授業。時差やネットワーク環境が原因で参加できない学生のために、授業内容はすべて録画してMoodleというプラットフォームにアップロード。授業で使ったプレゼンテーションもすべてMoodleからアクセスできる。

2.ライブ授業の前に、10分ほどのビデオを見て講義の概要を予習。ビデオを見られない学生のために、ビデオのスライドをMoodleにアップロード。

3.授業とは別にZoomで週2、3回ほどのオフィスアワーがあり、個別の質問があれば聞くことができる。

4.クラス内での試験は無しかTake-home Examで代用。(自分の家で受ける試験。宿題のような形式。)プレゼン発表などは無しかZoomもしくは録画で可能であれば続行。

5.課題はすべてMoodleを通して提出。

このような授業が始まったのは今週の月曜日からですが、MoodleとZoomを駆使した結果、教室で授業を受けているのとあまり変わらない感覚で授業を受けることができています。もちろん、これは学ぶ分野(例えば、私の今学期の授業は経済と数学だけなので、議論などの時間は限られています。)や教授のスタイルにも大きく左右されるところはあります。

ただ、私の大学では、基本的にすべての授業をこのような形でオンラインに移行したため、例えば実技の授業(アート、運動系)も打ち切りにはならずに続いています。友達もZoomでヨガや塗り物などの授業を楽しくやっているようです。(もちろん実際に教室内にいるのとは違うと思いますが。)

授業がオンラインに移る前から、Moodleはすべての授業で使われていたため、その点は全く問題がありませんでした。Zoomは一度も使ったことのない学生や教授がほとんどだったようですが、基本的な解説がそれぞれの授業であり、そもそもアプリが直感的にわかりやすい仕組みになっているため、こちらもあまり問題がなく使うことができています。ZoomやMoodleは学生が使う分にはそれほどハードルが高くないですが、実際にシステムを導入し運用するのは少し専門的な知識が必要になるのだと思われます。

そのため、今回のようにITのニーズが出た場合、担当の部署が迅速に対応をし、他のオフィスや各学部と綿密なコミュニケーションをとることになります。この連携がスムーズに行われたため、オンラインの移行にはそれほど時間がかからなかった学校が多いようです。大学のマネジメント側からIT部門への連絡もスムーズで、オンライン移行のアナウンスメントがされてすぐにIT部門からZoomの使い方に関するメールが全生徒に送られました。

必要な条件

アメリカや他の国(ヨーロッパ・中国都市部など)でこのような授業を可能にするのは、学校・教員側の知識に加え、インフラ整備と家庭のネットワーク環境です。私の大学ではIT担当の部署が学内のすべてのオンラインシステムを管理しているのに加え、ほぼすべての学生が個人用のラップトップを所有しています。パソコンを持っていない学生には、普段から図書館で貸し出しが行われており、さらに今は特別に無償でパソコンが与えられています。

これは日本の大学でも恐らく同じだと思いますが、アメリカでは同じことが中学校や高校でも当てはまるようです。こちらの友達に聞いたところ、Moodleのようなプラットフォームは中学・高校の時から使っていたようで、中学生、特に高校生は基本的に個人用のラップトップを持っていて、学校や自宅にもWifiがあることが一般的なようです。

日本ですぐに実現可能なステップ

しかし、このようなインフラを整えたり、学生のパソコンの所有率を上げるというのは今すぐにやろうと思ってできることではありません。日本ではWifiを持っていない家庭が大半だと思われますし、スマホを持っている中高生もビデオ授業に参加できるような通信量がある生徒は少数派だと思われます。こうした面を考えると、アメリカの大学で行われているようなオンライン授業を今すぐにおこなうというのは非常に難しいということがわかります。

これを考慮して、日本の学校が授業をオンラインに移すとすると、次のようなステップが考えられます。これらのステップが実現可能であるかは、学校側のキャパシティーによりますが、インフラの構築やパソコン・ネットワークへのアクセスといった課題に加えると、学校側の努力で達成が可能な面が大きいと思います。

1.各生徒への学校ドメインのEメールアドレス配布

これには、GoogleのG SuiteやMicrosoftのOffice 365といったシステムを導入することが恐らく必要となります。Eメールアドレスは生徒と教員のコミュニケーションを可能にするために必要不可欠なだけでなく、Moodleなどのプラットフォームを活用するためのキーとなります。現実問題として、これらのプラットフォームを使うことができない場合でも、少なくとも宿題の指示や生徒からの質問への応答は可能になります。

現時点で、学校から各生徒に何か連絡をしたい場合、保護者の連絡網を使った電話連絡が最も一般的な方法だと思います。(少なくとも私が高校生の時はそうでした。)しかし、これでは休校の間に宿題や質問といったやり取りには非効率的すぎます。生徒と教員の間で学校ドメインのEメールを使い、親が生徒のメールアドレスに連動したアドレスを登録することができれば、これらの連絡をもっと効率よく伝えることができます。

これに加え、一人ひとりの生徒がEメールアドレスを持っていると次のステップが実現可能になります。

2.MoodleなどのLMS(学習管理システム)プラットフォームの導入

3.レクチャーの録画・配信

4.ZoomやGoogle Hangoutを利用したライブ授業。

と言いたいところですが、記事が長くなってしまったので、これらのステップについては後編でまとめたいと思います。長々と読んでいただきありがとうございました。感想、フィードバックなどありましたらぜひコメントしてください。

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