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ツノがある東館【毎週ショートショート】

ある朝目覚めると東館はカブトムシであった。

どうせならクワガタが良かったな、と思いつつ、
羽を震わすと、周囲でちらちら見えるものがあった。毎朝ここに赴く若者達が、風で飛ばされたり、腰を抜かしていたりする。

確か彼らは「ダイガクセイ」という生き物で、何をしているのか分からないが、ある時をすぎると姿が見えなくなり、またどうにも捉えどころのない別の若者が入ってくる、不思議な群れの者達のはずだ。

空気の振動から「今日の哲学概論IIってどうすんの?」「休講?単位配布キター」「あれそもそも何?」「カブトムシじゃん、私甲虫苦手なんだよね」
とざわめいている事がわかった。

どうにも喧騒が耐えられず、飛び立とうと思った。だが、昨日まで普通の東館であった自分にはとてもうまくいきそうにない。

そして腹が減ってきた。
樹木が美味しそうにみえる。
どうすればいいのだろう。

明日はクワガタになっているといいなと思い、ゆっくり目をとじた。


<所感>
冒頭が印象的な名作はたくさんありますが、『変身』はその中でも指折りだと思います。

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