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DELLモデルのビジネスモデル図解:直販体制と受注生産

ノートパソコンやデスクトップパソコンを製造販売しているDELL(デル)ですが、実は1990年代には当時では斬新なビジネスモデルPC直販で世界一になったすごい会社なんです!

その斬新なビジネスモデルは「デル・モデル」「デル・ダイレクト・モデル」「デル直販モデル」など名前が付けられたほど。当時、創業者のマイケル・デル氏はITスタートアップの雄として持て囃され、多くの経営学者の研究対象となりました。

ということで今回は、1990年代の全盛期の頃のDELLのビジネスモデルについて図解します。

まずは全体像から。

ちなみに、上記のようなビジネスモデル図解は「ループ図」という手法を使っています。ご存知ない方も、このまま読み進めていただいて問題ありません。ループ図自体の詳細については、以下のブログ記事の解説もご覧ください。

DELL(〜1990年代)のビジネスモデル図解のポイントは、

  1. サポートコストの低減によるコスト優位性

  2. 直販体制による効率的な法人営業

  3. 受注生産による性能向上スピードの加速

の3つです。

当時の一般的なPCメーカーのビジネスモデル図解も踏まえて、比較しながら解説したいと思います。

① サポートコストの低減によるコスト優位性

1990年代は、まだまだパソコンが普及していない時代。大きな会社などではパソコンの導入が進んでいましたが、中小企業ではパソコンがあったりなかったり。ましてや一般家庭にはほとんど置かれてない時代です。

そんな時代に、買ったパソコンの調子が悪くなったら、自分でどうにかするか、買った店に相談するか、メーカーのカスタマーサポートに電話するしかないわけです。

一般的なパソコンメーカーは、家電量販店やパソコン専門店を通じて、法人にも個人にもパソコンを売っていました。

法人がパソコンを買った場合は、社内にパソコンに詳しい人がいたりするので、そこまでサポートコストがかかりません。しかし、個人顧客はパソコンに不慣れな人も多く、カスタマーサポートにコストがかかりました。

その結果、

  • 個人顧客数が増えるほど、サポートコストが増える

  • サポートコストが増えると、パソコンの価格が上がる

ということが起こります(上図)。

一方、DELLはどうしたかというと、個人の消費者にはパソコンを売りませんでした。買ってくれる台数が少ない割に、サポートの手間がかかるので販売効率が悪い。そこでDELLは法人顧客のみをターゲットとしました。

法人顧客に絞り込めば、パソコン1台あたりのサポートコストを大幅に抑えることができ、パソコンの販売価格を安くすることができます。結果、お客さんは喜んでくれます。

個人顧客という伸び代のある大きなマーケットを一時的に捨てる代わりに、コスト競争力を獲得しました。

② 直販体制による効率的な法人営業

当時の一般的なパソコンメーカーは、家電量販店やパソコン専門店での販売が中心でした。なぜそうしたかというと、たくさん売るため。

卸業者を通じて、すでに存在している小売店にパソコンを置いてもらうことで、短期間に広い地域でパソコンを売ることができるようになります。

しかしこの方法にはデメリットもあります。卸業者や小売店の利益も確保しなければならないため、その分、パソコンの販売価格も上がってしまいます。

さらに、卸業者や小売店に製品の在庫がある状態で、新製品を販売すると古い製品が値崩れを起こすので、次々に新製品を出すことはできません。

お店の在庫を減らすと、パソコンが欠品してしまう可能性があり、在庫を増やすと、新製品を投入するサイクルが遅くなるというジレンマを抱えています。

一方、DELLはどうしたかというと、直接販売のみに絞りました。ビジネスモデルの名前が「デル・ダイレクト・モデル」「デル直販モデル」と呼ばれるのもこれが理由。

でも直販にすると、たくさん売ることができなくなる?…というとそうでもありませんでした。

DELLは法人顧客にターゲットを絞っていましたが、法人顧客はパソコンが安ければ数十台、数百台と一度に購入してくれます。つまり営業効率がいい。

直販体制では、顧客との間に卸売業者や小売店を挟まないので、その分パソコンを安く売ることができます。

加えて、卸売業者や小売業者の在庫のことを考える必要がないので、メーカーの都合で高性能の新製品を販売することもできます。

そのため、価格や性能面での優位性を獲得しました。

③ 受注生産による性能向上スピードの加速

一般的なパソコンメーカーは「見込み生産」、つまりどれだけ売れるか(売るか)を先に予測して、大量に作った同じ製品を卸売業者や小売店に配送していきます。

見込み生産のメリットは、一度にたくさん作るので、製品1つあたりのコストを抑えることが出来ます。その結果、たくさん作れば作るほど、安く売ることができます。これを規模の経済と呼びます。

しかし、作った分は売り切らなければいけませんし、売り切ることが出来なければ赤字になる可能性もあります。見込み生産は予測精度が命です。

そして、DELLはどうしたかというと、注文を受けてから作る「受注生産」の体制をとりました。

規模の経済という大きな武器を捨てるので、一見不利なようにも思えます。では、規模の経済を捨ててまで得たかったものは何か?

それはパソコンの「性能」です。当時は、パソコンの部品や周辺機器の開発競争が盛んで、毎日のように新製品が発表されていました。

受注生産であれば、注文を受けた時の最新の部品をパソコンに使うことができます。顧客はより性能の高いものを、より早く注文できるのです。

一方、他のパソコンメーカーは、卸売事業者や小売店に古い製品が在庫されているので、新しいパソコン部品が出たからといって、簡単に入れ替えることはできません。

つまりDELLは直販体制でコストを削減しつつも、受注生産で最新のパソコン部品を搭載することで、「安くて高性能」を実現したのです。

DELLモデルのビジネスモデル図解まとめ

あらためて、DELLダイレクトモデルの図解を俯瞰してみましょう。

やはり直販体制と受注生産の絶妙な組み合わせが、ビジネスモデルによる競争優位性のポイントでしょう。

大量生産・大量販売には、競合のパソコンメーカーのように見込み生産と小売り販売の組み合わせが王道ですが、当時の「技術革新」と「性能を追い求める消費者」の大きな波にはDELLのビジネスモデルの方がマッチしていたようです。

なお、以下のブログでは、さらに詳しい解説を公開しています。ぜひ下記リンクよりご覧になってください。

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