見出し画像

【第5回】授業で学生の注意(関心)を引き出すには?⑤ 同僚と考えることの大切さ

~教育学者から、看護教員へ~

 今回は、学生の注意(関心)を引き出す授業の工夫を実際に先生方が考えていく中で生まれてきた疑問やお悩みにお答えしたいと思います。

1.より”よい”タイトルを考える

 学生の関心を引き出す授業のタイトルの特徴とし3つのヒントを出させていただきました。

・”何をする”授業かがわかる
・”何ができるようになる”授業かがわかる
・”何のための”授業かがわかる

 これを踏まえ、酒井先生たちが考えて下さった授業タイトルは以下の通りです。(元々の授業タイトルは「手術を受ける患者の看護 ~術前訓練~」でした)

①「手術はやっぱり怖いよね ~患者の安全を守るための術前訓練~」
②「患者の安心、安全を守る術前訓練」
③「未知との遭遇を既知にする術前訓練」

 これらをふまえて、「患者さん目線のタイトル」がよいか「看護師目線のタイトル」がよいか、というご質問をいただきました。大変難しいご質問ですが、私は後者の方がよいと考えます。学生は立派な看護師になるために授業で学んでいるため、看護師としてどのようなことができるようになるか、何を意識すればよいかが伝わる者の方がわかりやすく、説得力があるからです。「ネガティブなタイトル」がよいか「ポジティブなタイトル」がよいかについては、授業で何を学生に意識づけたいかによって変わると考えます。リスクや危機管理意識を高めたい場合は前者の方が良いでしょうし、患者さんを前向きな気持ちにさせたい場合は後者の方が良いでしょう。
 なお、③については「未知」「既知」「遭遇」など、学生にとっては少し難しいと感じる表現が多く使われており、タイトルから授業の目的や内容のイメージがつきにくくなってしまっているように感じます。
 以上を踏まえると、この3案の中からであれば、私は②を選びます。もし、私が別案を提案するならば「健康回復を促す術前訓練~患者さんの安心・安全を叶える説明法」です。術前訓練の一番の目的をメインタイトルに据え、それを実現するために学ぶことをサブタイトルに入れてみました。

2.発問あるあるに対応する

 発問をしたときに教員が困る2つのケースについてです。

 第1のケースは、「 教員の発問に対して、固まってしまい無言になる学生がいると、ついつい答えを教員が示してしまう」というお悩みでした。これについては、いくつかの対処法があります。
 1つ目は、発問する前に個人で考える時間を与えるというものです。発問の内容にもよりますが、30秒~1分程度、1人で考えさせます。自分なりの答えをノートに書かせても良いでしょう。そのうえで答えてもらうと、何らかの回答は得やすくなります。授業の鍵を握るような重要な発問である場合は、いきなり個人に答えさせるのではなく、隣近所の友達と相談させあう時間も少しとってから、全体に向けて発表してもらっても良いでしょう。 
 2つ目は、発問の仕方を変える方法があります。聞き方ひとつで、学生の答えやすさも変わってきます。例えば、「手術前の患者さんに対して、看護師がすべきことはどんなことだと思いますか?」という発問に対して、答えが返ってこない場合、「手術前の患者さんは、どんな気持ちだと思いますか?」「不安だと思います。」「その通りですね。では、どんなことに不安を感じていると思いますか。」「失敗するんじゃないかとか、痛いんじゃないかとか、手術後早く退院できるのかとか、でしょうか。」「すごい!よく患者さんのことを考えられていますね。じゃぁそんな患者さんに対して、看護師ができそうなことって、例えばどんなことがありそうですか?」というように、質問の切り口を変えてみたり、具体化してみたり、少しずつ段階的に聞いていくことによって、学生の思考を導くことも可能です。

 さて、この2つ目の方法をとった結果、起こってしまうのが第2のケース発問に答えられない学生に、違った角度から発問を繰り返し、そもそも何の発問だったのか? という状態になってしまう」というお悩みでした。
 これに対するシンプルな対処法の1つは、単純に発問相手を変えることです。1つの発問を複数の学生にすることで、いろいろな見方や考え方を引き出すという方法はよくあることです。「わからない」という学生から無理に引き出そうとせずに、テンポよく他の学生をあてていくことで、より効率的な授業展開も可能になるでしょう。
 より本質的な解決策は、授業前に「主発問」を明確にしておくということです。主発問とは、授業の中で学生に最も考えてほしいことを問いの形にしたものであり、その授業回の目的や目標と直結するようなものです。これを常に意識しながら発問をしていくことができれば、授業の主題から外れることは少なくなるでしょう。また、様々な発問をしても的外れな答えばかりが返ってきてしまうとすれば、それは教員の発問力不足というよりも、学生の理解度不足が大きな要因かもしれません。その場合は早々に発問を切り上げ、改めて大事なポイントを講義し、学生の理解を促すことの方が賢明ではないでしょうか。 

3.課題をどう考えるか

 「(授業外の学習)課題を多く出すことに対する躊躇」というお悩みをいただきました。たしかに、「課題が多すぎで、取りあえずやるっていうか、やっつけになってる」と学生が語る状況は、課題が学習を促さない、もっといえば、課題が学習を阻害してしまっているかもしれないと危惧します。他の授業でだされている課題量との兼ね合いも含めて、学生の学習にとってベストな課題とは何だろうかと改めて考えることは重要です。
 まず、「予習」と「復習」のどちらの方が重要かというテーマについては、授業の特性(設計の仕方)によって異なるでしょう。例えば、授業前の課題として講義動画を視聴し、授業中はその内容を踏まえて学生同士のディスカッションを行う「反転授業」の形式が注目されています。この方法をとっている先生に話を聞くと、「予習課題が厚い分、復習課題はほとんど出さない(授業の感想程度のみ)」と言います。逆に復習課題をしっかり出す先生は、予習課題をほとんど出さないそうです。要するに、教育目標と全体の授業プログラムを踏まえて、どちらに力点を置いて設計をするかを個々の教員が考えて設計することこそが重要といえるのではないでしょうか。
 最後に1つ補足をしますと、授業外学修課題の量の問題だけではなく、課題の質についても考えてみてください。何のためにその課題をするのか、課題を達成することが授業とどのようにつながるのかが学生に理解されなければ、それは「やっつけるもの」になってしまいます。学生は達成することに「意味がある」と理解すれば、大変な状況下でもそれを乗り越えようと頑張りますし、そこから大きな成長遂げることも多いものです。私が担当する授業は学内でも一二を争うほど課題が大変(学生談)なのだそうですが、最終回の授業後の感想には「大変だったが、やりがいがあった」「大変だったからこそ、成長できた」と書いてくれる学生が多くいます。学生が達成することの意味や価値を感じられる課題を出したいものです。 

4.教員間コミュニケーションの重要性

 最後は、お悩みではなく、教員間でコミュニケーションをとった結果、より良い発想が生まれたり、学びが深まったという嬉しいお声でした。学校現場では、どうしても個々の授業は個々の教員任せとなり、他の先生に授業の相談をしたり、一緒に考えたりする機会は少なくなってしまうものです。一方で、教員の能力開発における同僚性の大切さはよく語られます。研修や講演会では得られないような、理念的あるいは実践的な学びを得られることも多いものです。また、教員間のコミュニケーションは、科目間の教育内容や方法の調整にもつながり、昨今叫ばれるようになったカリキュラムマネジメントを実現するための土壌にもなります。特にカリキュラムマネジメントが上手くいっている大学や専門学校さんは、領域間の壁も低く、領域を越えたコミュニケーションも活発なようです。
 今後も、教員間のコミュニケーションを大切にし続けていただき、教員の能力開発、授業改善、カリキュラムマネジメント等に結び付けていっていただきたいと願います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?