ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
すでに続編となる完結編も刊行されている話題の一作目を、やっと手に取りました。新潮社の書籍サイトによると、Yahoo!ニュース 本屋大賞2019 ノンフィクション本大賞の他、数々の賞を受賞している「親子で読みたい『一生モノ』の課題図書」のようです。
英国のブライトン(の元公営住宅地)で、アイルランド人の配偶者と息子と暮らしている保育士の作者が、元底辺中学校に入学した息子の1年半を描いたノンフィクションです。
息子の「ぼく」が、ランキング1位のカトリックの小学校からそのまま中学校に上がることをせずに、白人労働者階級の子どもたちが通う中学校を選択するところから始まるのですが、この学校が大変魅力的な学校で、底辺から今はランクの真ん中あたりまで浮上してきた理由が随所に垣間見られる内容となっています。
「自分が楽しいと思うことをやれる」中学校の教員たちの姿勢が素晴らしく、「うちの生徒、やるでしょ」と誇らしい顔をして生徒に「迷いのない拍手」を送っている場面が印象的でした。
9割が白人の子どもたちである中学校で、日本人とアイルランド人の子どもである「ぼく」は「イエローでホワイト」な存在。人種差別的な問題に関わらざるを得なくなるのですが、彼の「分別のあるしっかりと」した様は、年齢以上の成熟度で、各エピソードをしっかりと支えていきます。
「エンパシー」=「自分がその人の立場だったらどうだろうと想像することによって誰かの感情や経験を分かり合う能力」について学んでいく中学生の「ぼく」は、人種の問題だけでなく、LGBTQ等々、異なる個どうしが尊重し合う社会について考え、アイデンティティを見つけていくことになります。結果的に、多くの示唆に富む文章が心に残ることとなりました。
様々な人々が住み、様々な文化や考え方を持つこの世の中で、「ブルー」という、個人的な主観の中で生きていくのではなく、「エンパシー」を手に入れ、自分が未熟な「グリーン」であることを認識していくラストを清々しく読み終えました。そして、このラストには、人々が、様々に、自分に合ったカラーを獲得していく未来への可能性を感じました。
続編(完結編)である『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』の新潮社公式ページでは、全12章のうちの2章分が無料公開されています。冒頭の2章だけでも、一作目以上にどしんと胸に迫る内容となっています。「パンクな母ちゃん」の描く「ぼく」の世界がどんな風に締めくくられるのか、さらに興味が湧いています。(八塚秀美)