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中脇初枝『きみはいい子』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2022.04.16 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

第28回坪田譲治文学賞を受賞し、2013年本屋大賞第4位ともなった、同じ町の同じ雨の日の午後を描く五篇からなる連作短篇集です。うち、「サンタさんの来ない家」「べっぴんさん」「こんにちは、さようなら」は、呉美保監督✖高良健吾✖尾野真千子の同名映画の原作で、その他には、「うそつき」「うばすて山」が収録されていました。映画から感じた救いのようなものが、原作本ではどのように描かれているのか気になって手に取った作品でした。

児童や高齢者への虐待、ネグレクト、発達障害、認知症、学級崩壊、などの簡単には解決しがたい問題がいくつも絡み合っている短編集です。どの物語にも、保護されるべき子供たちが何らかの虐待を受けている(過去に受けていた)事実が背景となっているのが特徴的でした。しかし、それぞれの作品には、解決には至らないまでも、解決の予兆であったり、現状に飲み込まれないための精神的な支えのようなものが描かれていて、それらが救いとなって本書を支えているように感じました。登場人物達が少しずつクロスしているのも、それぞれの問題が独立したものではないことを示しているようで、同じ町の中で起こる些細な変化が、また次の良き変化に繋がっていくのではないか……という可能性も感じさせられました。

「みんないい子」というタイトルは、苦しい現実を受け入れて生き続けようとする登場人物達だけに向けられたものでなく、自分の現状を打破しようとけなげに生きている私たち読者に対しても送られている、作者中脇さんからのメッセージのように感じました。