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伊坂幸太郎『シーソーモンスター』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.06.15 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

『小説BOC』1~10号に連載された、8作家による競作企画「螺旋プロジェクト」の中の一作品。昭和後期「シーソーモンスター」と、近未来の「スピンモンスター」の二編が収録されています。平成を描いた朝井リョウさんの『死にがいを求めて生きているの』に続いて、2冊目の刊行です。

「螺旋プロジェクト」とは、次の3つのルールに従いながら、古代から未来までの、日本で起こる「海族」と「山族」の対立構造を描くプロジェクトで、伊坂幸太郎さんが呼び掛けたものなのだそうです。

① 「海族」と「山族」、2つの種族の対立構造を描く
② 全ての作品に同じ「隠れキャラクター」を登場させる
③ 任意で登場させられる共通アイテムが複数ある

『死にがいを求めて生きているの』同様、「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」もそれぞれ一つの作品として読み応えがあるのですが、2冊を読んでみることで、ルールを念頭におくことで、作者ならではの独自性がより際立ってきて、競作ならではの面白さが加わるのだと実感しました。

伊坂幸太郎さんの作品について言えば、「対立」をいわゆる真正面からの「対立」として描かないところに、そのオリジナリティを感じました。対立は戦いを産むが、対立にも様々な形がある。目を背けずにどちらも存在するものとして受け入れることこそが、立ち向かうことであり、また、戦わずして対立を回避する術なのではないか……。もしかすると、私たちの日常のもがきとは、他者との対立を生まぬための努力が形を変えて現れ出たものなのではないか……、など、目の前の事象を前向きにとらえたくなりました。

と言いながら、「モンスター」という「正体の分からない恐ろしいもの」に対して、ある時は均衡を取ることもできれば、ある時はその回転の中に巻き込まれていく私たち。もしかしたら、私たち自身もまた、自分自身であり続けるために自らのスピードで回転し続けなければならない「モンスター」なのかもしれません。

伊坂さんと朝井さんの作品で見えてきた共通項が、他の作品ではどう繋がっていくのか。物語の背景となる「時代」を変えながら、「螺旋」というキーワードの中での歴史物語! 他の作品の中で、どんな答えが用意されているのか、気になって仕方がなくなってきました。