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生態系サービスと道路利用税

年明けに、通年調査地である小矢部市の子撫川に行ってきた。
小矢部市は富山県の西の端、石川県金沢市のお隣にあり、小矢部川の支流の子撫川はその分水嶺を県境の稜線に有している。

要するに、遠いのである。

富山市から国道8号線を西に車で1時間ほど走ると、三井アウトレットパーク小矢部がみえてくる。その先を右折して山村を15分ほど走ると調査地の子撫川上流部である。

車を降り、川に沿って上流側に向かって鳥類の生息調査を開始する。


宮島峡で有名な宮島温泉のまわりには森屋、北屋敷、二ノ滝、名ヶ滝など古くからの集落が残り、耕作も現役で行われている。

用水路の石組みのすき間には、2羽のカワガラスがひっきりなしに出たり入ったりしている。

そこから分岐した何本もの細い水路が20㎝ほど雪が積もった白い田畑の間を縫うように雪を解かしながら走り、地表面を露出させている。

こうした露出部は貴重な野鳥の生息場所になる。水路の法面、雪の下から顔を出した藪の中からは、アオジやカシラダカなどホオジロの仲間や、ウグイス、ミソサザイなどの地鳴きが聞こえてくる。

少し水のたまった水田では、キセキレイやセグロセキレイが盛んにえさを探している。

雪の上に捨てられた白菜やキャベツの外葉の周りにはヒヨドリが集まり、庭先のカキの木にはメジロが群れる。夜に訪れたのか、キツネの足跡も見られた。

人の手が入った自然が様々な生物の生活場所として成り立っているのが里山里地の特徴である。

自然の大切さをノスタルジックに語るのではなく、実際に役に立っているものとして可視化しようという取り組みに「生態系サービス」という考え方がある。その生態系が存在することによって、人間がどのような恩恵を受けているか可視化し、行政的に評価しようというものである。

生態系サービスは大きく4つに分けられる。里山里地の水路や水田・溜池などの生態系サービスには、ざっと列挙すると以下のようなものがある。

供給サービス・・・農作物、樹木、魚介類、飲料水など
調整サービス・・・洪水の緩和、大雨の吸収、気候変動の緩和
基盤サービス・・・生物多様性の維持、希少種の保存
文化サービス・・・行楽、教育の場、芸術の素材

人間は、山村に暮らす人たちの日頃の保全作業から、これら有形無形のサービスを受け取っている。生態系という目に見えないものから、無意識のうちに恩恵を受けとっているのである。

だから、これら人為的な自然を維持するための農作業には、それ相応の対価が上乗せされて支払われるべきなのだと思う。これは受益者である人類全体から、生態系を守る作業者への、必要な、税金的な代価なのだ。

と殊勝なことを考えながら、その仕組みづくりについては詳しく考えずに調査の帰路を車まで歩いた。

車に乗り、自宅に向けてまた一時間ちょっとの運転を開始する。

ガソリン車でも電気自動車でも、自動車に乗り、道路を利用することで、運転者は目に見えない色々なサービスを受けている。舗装工事や路肩補強だけでなく、交通標識や案内板の整備、ガードレールなど見える物から信号機の制御や雑草の刈り取りまで、枚挙に暇がない。

それらを受益者に負担させようとして昨年末国民の総スカンを食らい、内閣支持率を大きく下げたのが「道路利用税の導入」案である。

生態系サービスへの金銭的な還元と道路利用税の導入。一体どこが異なるのだろうか。

ハンドルを握りながら、調査地を後にした。



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