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金木犀が咲いた

金木犀が咲いた朝、私は37回目の誕生日を迎えた。

今日はどのように過ごそう。

毎年自分の誕生日には神社へ参拝したり行ってみたかったお店でランチしたり自分の誕生日ケーキを焼いたり整体に行って身体のメンテナンスをしたりして過ごす。
何週間も前から誕生日に何をするか決めてその日を楽しみにしているのが常だった。

けれども、今年は生後10ヶ月次男がいてランチは難しそうだ。
その上、幼稚園のお迎えがいつもより2時間早くどこにも出かけられそうにない。

だから今年は今日の予定を何も立てないまま当日を迎えた。
ただ普通に一日を終えられるだけでありがたいのだから。

長男は林間学校へ行く。
長男は大事な行事がある日に寝坊したことがない。
準備も既に一昨日までに整っている。
きっかり5時に起きて家事を手伝いながら
朝ごはんと弁当が出来上がるのをそわそわと待っていた。

神棚の塩、米、水を毎日新しく取り替えるのは長男の仕事だ。
長男が新しい塩、米、水をお供えし、一緒に参拝をした。

まずは長男、長女、三女、夫の弁当と家族全員の朝ごはんを整えて
みんなを気持ち良く送り出そう。

長男は大きな荷物を抱えていつもより1時間ほど早く出かけた。
2年前長女にもしたように、出がけに家から数メートル先の
坂まで付き添って見えなくなるまで見送った。
長男は見えなくなる直前に一度振り返って私に手を振った。

いってらっしゃい。楽しんできてね。
長男の後ろ姿を思い出しながら自宅に戻る。
自宅の門をくぐると庭の金木犀がふわっと香った。

それから次々と長女、次女、三女が出かけていき
夫が三女を幼稚園バスのバス停に送ってくれた。

家の中はしんとした。
やるべきことが一通り済んで落ち着いた。

床に腰を下ろすと、次男が膝に乗ってきたので
一緒に遊び始めたのだが
ふと見回すと絵本が無造作に散らばっている。

たたんではあるものの
引き出しに仕舞われないまま畳に積み上げられた子どもの服、
次男の遊んでいるおもちゃ、
脱ぎ捨てられた上着・・・

家族のいろんなものがいたるところに置きっぱなしになっている。

今日は、家の中を綺麗にする日としよう。

いつも時間が足りず諦めていることがたくさんあるのだ。

そうと決まったらまずは家中の窓を開けて空気の入れ替え。
東の窓からも、南の窓からも、淡いオレンジ色をした金木犀の花が見えた。
風が気持ち良く通り抜けていく。

どこから始めようかとまず玄関に行ったところ
玄関に泥だらけの靴が2足見つかった。

泥だらけの靴に粉石鹸を振りかけ
ごしごしと石鹸を泡だてながら擦って
汚れを浮き上がらせる。
泥が一気に落ちて靴が本来の色に戻る。
案外好きな仕事だ。

洗濯機で脱水して日当たりのよいベランダに干しに行ったら

お次は子どもの寝室で
しまいそびれていたタオルケットを3枚見つけた。
さすがにタオルケットではもう寒い。
これも洗って干すことにした。

次男がお昼寝を始めたので
タオルケットを洗濯機で洗っている間に
仕事を片付けることにした。

仕事を始める前にお茶時間を楽しむ日もあるのだが
今日は半日保育で三女が2時間後には帰ってきてしまうから余裕がない。
締切りが近い仕事から次々と片付ける。

平日は午前9時半から午後2時頃までは仕事をしていることが多いのだが
今日は午前11時までで終了させた。

タオルケットをベランダに干しに行った後
三女お迎えまでの35分間に
手当たり次第、床に散らばっているものを
あるべき場所に戻した。

三女をお迎えに行くと 
バスから降りてきた三女が

幼稚園に入園して以来初めて
「ママに会いたくなっちゃった」
と言って泣いた。

次男を抱っこ紐で抱っこしていたのだが
次男を右に寄せて三女を左側に抱いた。

どうしたの、と尋ねても
うまく話ができないようだった。

翌日に運動会を控えている。

三女が「運動会」に向けて過ごしてきた
数週間に思いを馳せ、泣いている理由を聞くのはやめた。

今三女が感じている気持ちは三女にとって
運動会の思い出のひとつなのだ。

自宅に戻って三女と次男にお弁当を食べさせ
家の掃除の続きを始めた。

夢中で仮置きされていたものを所定の位置に戻し
家中を雑巾がけ、掃除機がけした。

始めた頃は次男が掃除機を追ってハイハイしてきたり
三女が一緒に雑巾掛けを手伝ったりしていたが

いつの間にか二人はリビングで寝てしまった。

次男は布団で寝るのが好きなので
自分で布団に這っていったようだ。
いつものように布団にうまく収まって寝ていた。

三女は床にうつ伏せで寝るのが好きだ。
トイレに行ったあとパンツとズボンを履くのが億劫だったのか
何も履かないまま次男と並んで床に寝ていた。

二人が寒くならないよう
薄いガーゼケットをかけてリビングの窓を閉め
トイレ掃除にとりかかった。

トイレを掃除するときは
水で薄めたエタノールに精油を何滴か混ぜて使う
というやり方が気に入っている。

トイレ掃除を終えると
家中がとてもすっきりした。

廊下に吹き抜ける風が心地いい。

掃除用具をしまって窓を閉め
水を一杯飲んでから
髪を整えに洗面所へ行くと
拭き掃除に使った
フランキンセンスの香りがほのかに立ち上った。

こんな誕生日も悪くない。

その後昼寝から目覚めた四女次男と
小学校から帰宅した次女三女を連れて
日が暮れるまで近所を散歩した。

あちらこちらの庭から
金木犀の華やかな香りが流れてきた。


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