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【これが愛というのなら】小さな嵐の前の、たつまき




病棟勤務


理恵が退職し、しばらくしてから私は外来勤務から病棟勤務に変わった。

配属は整形病棟。

ICU担当や、長期入院、または転院から施設、また転院をくり返している患者がいる病棟担当(電子カルテ化して現在は楽になっていると思うが、手書きカルテ時代、大変算定が難しかった)は、忙しさに毎日6時かも7時間も残業しても時間が足りないようだっだが、整形病棟は楽だった。

冬にスキー場で骨折した患者が増え、夏にボルトを外しに来る。

たまに、交通事故で全身バラバラ骨折をした患者の手術伝票を見て「このOPとこのOPは同時に点数としてあげられるか、加算か、合算か」と悩むぐらいだ。

変形関節症で人工関節にする患者が一番多かった。

病棟がすいているときは、内科や外科であふれた患者が来ることもあったが、基本虫垂炎や肺炎の治りかけのような医療事務としては簡単な仕事が多い。

基本的に、1日中パソコンの前で計算をしていくだけ。

電話対応もクレーム対応もない。

人工関節の種類によっては数百万円かかる場合があり、事情によっては「生活保護」など案内し、ケースワーカーと連携を取るが、外来に比べたら平和で静かな環境だった。


全ての病院がそうだとは言わないが、私が勤めていた総合病院だと、病棟では基本的に「医事課」の人間は「人間扱い」されない。

特別虐められるという訳でなく、「患者が退院するときに計算するパソコンの部品」程度に思われていることは伝わってきた。

月末月初、レセプト業務で残業をしていると、人の少なくなったナースステーションでは、「合コンに行った」だの、「新しい彼が出来た」など話しを看護師同士でしている。

整形病棟では、大柄な男性の看護も必要なので、若いスタッフが多く、また、当時は今ほど男性看護師がいなかった。

女の子同士集まると恋愛話しに花が咲くのはいい。

しかし

「○○くんにお持ち帰りされてー」

「え?彼女いなかったっけ?」

「いいよ、こっちも本気じゃないし」

「それより、皮膚科のあの子、先生と別れたみたいだね」

「あー、若い子に乗り換えられたみたいだね」

「しょせん不倫だもんねー」

「でも、●●先生と××さんは長いよね」

「W不倫って美味しいのかな-?」

私が聞いて、いい話しなのだろうか。

看護師たちは、私が吹聴する可能性すら、思いつかなかいようだった。

外来スタッフ


望は、理恵も辞め、「一期生」のほとんどがいなくなった外来スタッフの中ですでにベテランになっていた。

しかし、やはり小さな体と童顔で、貫禄がない。

私が用があって外来の医事課によったとき、新人スタッフにあからさまに望を馬鹿にしていると思う出来事があり、短気な私が倍にして言い返そうとしたが

「えー、そうかなー?でも◆◆さん、昨日もその作業で間違えてたよねー?望に話しかける前に集中した方がいいと思うよー」

さらりと受け流していた。

病棟スタッフは専門性が高く、誰か辞めたら終わり、という緊迫感があり、長く勤めているスタッフが多かったが、やはり外来スタッフの定着性は悪い。

辞める辞めないを繰り返し、最終的に院長まで引きずり出して「退職」が決まっていたスタッフが、退職日、「やっぱり辞めません」と言っても、そのまま勤続を許すしかないほど人不足は深刻だった。

望はそんな中、頼りなげに見える外見からは考えられないようなパワフルさで、医事課、院内を駆け回る。

外来看護師と仲のよいカルテ搬送係のリーダーの引き立てもあり、望は看護師からも評判が良かった。

そんな時、小さな事件が起こったのだ。

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