あなたに出会わなければ 強さも優しさも知らないまま
土曜日、相変わらず不安定な私に、北がLINEで付き合ってくれる。
19日の予定は、台風でなくなり、23日に振替。
北は20日にも休みを取っていたらしく、どこかで君んちに行こうと思ってるんだけど、と。
今すぐ来い。
迷わず言う私に、少し考えさせてと、結局、真夜中来てくれた。
纏わりつくように甘える私を、はいはいとあしらいながら、最近2人でハマってるゲームの攻略をさんざん話す。
3時を過ぎ、小腹を空かせて24時間営業のスーパーやコンビニを周り、朝からのんびり飲み会。
アニソンかけて、2人でゲームのレベル上げして、なんともオタクくさい時間を過ごす。
先に寝てしまった北を見ながら、残りのお酒をゆっくり飲んで、北が持ってきてくれたマンガを読んで、北の眠りを妨げないよう過ごす。
少し仮眠して、ゲームのイベントの為に昼前に2人して起きて、それぞれのグループでイベントをこなす。
私の方がレベルの高いグループだから、どんな感じなの?と覗き込んできて、うわあ、ガチだ、何してるの?そんなこと考えながらやってるの、君が呪文を唱えてる、と盛り上がる。
日が落ちないうちに帰るよ、と言われていたので、昼過ぎにひっつきに行き、よしよしされて、そのまま抱き合う。
北は私を抱きしめながら、ああ、君の幸せは、俺とこんな風に過ごして、そうしてあの人と付き合い続けることだったんだろうねと、妙にしんみりと言う。
倫理的は間違ってるけれど、君がそれで満足なら、それも一つの選択だったのかも知れないね。
腕枕の北は、もう一方の手で優しく何度も髪をかきあげる。
かなり蒸し暑く、北に頼まれてエアコンを強めに効かせた肌寒い部屋で、ずっと抱き合い、色々なお話をして、気がつけばとっくに日は暮れていた。
北は自宅で食べるからと、私だけの夕飯に付き合ってくれる。
流石に帰る、と立ち上がった時は、もう完全に夜だった。
20日にはまた病院やら他の用事やらで来てくれる事になっているのに、離れ難く抱きつく私に、今幸せ?と聞いてきた。
うん、と答えると、
「死にたくなったり、自分を傷つけたくなったりするのは仕方ないけれど、こんな風に、幸せを感じたり、笑ったり、心地よさを感じた日もあった事を忘れないで。これは幻想なんかじゃない。確かにあった日で、辛い時、こんな日もあったんだなと、思い出して。その積み重ねで、心は強くなれるのじゃないかな」
静かな声で、言い聞かせる。
北の帰り道も、ずっと電話して。
月曜日、起きてスマホを見ると、9月19日の日付。
あなたの誕生日か。
台風の影響で、日中ずっと暗く、雨が降り、多少風が強かった。
深夜に台風は駆け抜けるようだ。
スマホを取り上げるたびに、ロック画面が、あなたの誕生日を教えてくれる。
雨音も、少し私を悲しくさせたけれど。
好きな気持ちは変わらない。
でも、私は永遠にあなたの誕生日を祝わない。
もうすぐ、北が来る。
慌ただしい1日、その隣には北がいるから、それならもういいや。
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