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大海賊の包括的視点を 「宇宙船地球号 操縦マニュアル」ブックレビュー

出典「宇宙船地球号 操縦マニュアル」文:萩谷衞厚(アースデイ ジャパン ネットワーク共同代表)

宇宙船地球号に関してはとりわけ重要なことがある。それは取扱説明書がついていないということだ。自分たちの宇宙船をうまく操縦するための説明書がないという事実は、私は非常に意味深長なことに思える。この船のほかのあらゆる細部には、あれほどの配慮が払われているわけだから、そのことを考えれば、説明書は故意に、なにかの目的で割愛されたと思わざるを得ない。

出典「宇宙船地球号 操縦マニュアル」

地球環境問題の現在地

バックミンスター・フラーによる、1969年に発表した「宇宙船地球号操縦マニュアル」。地球上に暮らす人類が、今風に言えば、どうサステナブルに生きていくのかを世に問うた本書が出版されたのは、今から50年以上前のことです。

1969年当時、地球環境問題や科学技術の分野で何か起きていたか、歴史的な名著の情報も加え、整理してみました。

  • 1962年 レイチェル・カーソン 「沈黙の春」発表

  • 1969年 環境NGO Friends of the Earth設立

  • 1969年 アポロ11号 人類史上初の月面着陸

<本書 発表はこの辺り>

  • 1970年 大阪万博開催。テーマは 「人類の進歩と調和」

  • 1970年 4月22日を「アースデイ」と宣言

  • 1971年 ラムサール条約制定

  • 1971年 日本で環境庁が設営津

  • 1972年 ストックホルム 国連 人間環境宣言

  • 1972年 民間シンクタンク ローマクラブ「成長の限界」発表r

  • 1972年 国連環境計画(UNEP)発足

  • 1972年 ワシントン条約 採択

70年代の環境問題のメイントピックと言えば、産業公害。しかし、本書は、環境問題を地球規模の課題へと促す転換点となっていることが理解できます。

改めて本書に目を通して驚いたのが、進化するコンピューターや、シンギュラリティ、シェアリング・エコノミーを想起させる内容や民主主義のあり方までが含まれていること。難解な箇所も多いは否定できませんが、示唆に富むバイブルとも言える名著の評価は揺るがないでしょう。

では、今や危機的状況ともいえる宇宙船地球号。私たちは乗客や操縦士として下車することはできません。では、”取扱説明書”のない宇宙船地球号をどう操縦するのかが本書のテーマでもあります。

求められる包括的視座

基本的に、宇宙船地球号、つまり、地球という惑星には、半永久的エネルギーを供給し、化石燃料を生み出す太陽という存在があること。しかし、このままでは、太陽が数十億年もかけて蓄積した化石燃料を人間が数百年で食い潰してしまうこと。そうなれば宇宙船自体が立ち行かなくなってしまうというのが、本書の起点となっていますが、その解決策の一つが、包括性であるとしています。

「大海賊」(グレート・パイレーツ)の支配(包括性)は、第一次世界大戦を契機とした科学的、技術的革新により、専門性が進んだ。

出典「宇宙船地球号 操縦マニュアル」


宇宙船地球号を操縦するには、専門家としてその役割をコンピューターに取って代わられようとされているため、人間は生来の「包括的な能力」を復旧し、活用することが求められているということ。

近い将来、人間の仕事がとって変わられる、人間にとって重要なのは、創造力や構想力、の様なことが叫ばれていますが、50年前にフラーの主張と符合するもの。つまり、本書でいう大海賊が持ち合わせていた、包括性を取り戻し、発揮すべきという主張となります。地球規模の高く広い視座を持つということでしょう。

人類が生き延びるための知恵「富」

宇宙船地球号を操縦するうえでもう一つの重要なポイントは「富」。本書で述べられる富の定義は、以下の通りとなります。

  • 「私たちの組織化された能力で、私たちの健全な再生が続けられるように、(中略)環境に対して効果的に対処していくもの」

  • 「物質的に規定されたある時間と空間の解放レベルを維持するために、私たちがある数の人間のために具体的に準備できた未来の日数」

つまり、冨とは、物質的、資産的な貨幣価値ではなく、宇宙船地球号を航行される、、つまり、人間が生き延びるたの知恵ということ。

宇宙船地球号の全体の富のなかには大きな安全要因がデザインされていて、そのおかげで、人間は長いあいだ、無知のままでいることが許された。そのあいだに私たちは十分は経験を積み、そこから一般原理の体系をどんどんと引き出して、環境をより有利に管理するために、より多くのエネルギーを支配するようになっていった。
宇宙船地球号をいかに操縦し維持するかということについて、また、その複雑な生命維持や再生のシステムについて、取扱説明書がなかったことも、デザインされてのことなのか。そのために私たちは、自分たちのもっとも大切な未来に向けての能力を、過去をふり返りながら発見していかねばならなくなった。

出典「宇宙船地球号 操縦マニュアル」

宇宙船地球号=ホテル・カリフォルニア説

最後に、改めて本書を読み返して思い浮かんだのが、イーグルスのあの名曲の一節。
”We are programmed to receive. You can checkout any time you like, but you can never leave!”
「我々は運命を受容れるしかない。いつでも好きなときにチェックアウトはできる。しかし、立ち去ることは出来ない」
(イーグルス 「ホテルカリフォルニア」より)

下車することは許されない宇宙船地球号。その命運は今、私たちの高い視座と創造性豊かな知恵に委ねられています。


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