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アイヌと家族とコーヒーの物語。

旅というのは不思議なものだ。
そのときどきに見つけた小さなカケラをたどっていくうちに、いつの間にかおおきな一筋の物語が浮かび上がってくるような。

予定をたどること。
空白を埋めていくこと。


それが日常なら、旅はこうかもしれない。

心地よい空白を持ち。そこに入ってくるものを受け入れるもの。
どんな絵になるかは分からない。けどあとから振り返るそこに、自分の人生にとっての必然性のようなものが生まれるもの。

誰かを訪ね。その方から出てきた名前の肩を訪ね。
それを繰り返したら、阿寒にあるアイヌ古潭というところに辿り着いた。



「ポロンノに行くといいよ。みんな仲間だからきっとおもしろい出会いになると思う。(喫茶ポロンノhttps://www.poronno.com/

アイヌコタンと呼ばれる、アイヌの民芸品やシアターがある坂道のいっかくにポロンノはあった。少し薄暗い店内に入っていくと、テーブルへどうぞとソッと声をかけられた。ちょっとだけ考えて、でもカウンターじゃないとお話できないなと思ってカウンターいいですか?と腰かけた。

ひげもじゃ姿、山小屋の主人のような見た目のご主人に、紹介いただいたお友だちの名前を伝えたらフッと表情が緩んだ。そこからは、僕のここに至るまでの旅の話をしながらアイヌの食事をいただく。

「今晩の宿はどうするか決めてます?」

12年前の日本一周でここのライダーハウスにお世話になったと伝えると、そこのアイヌのお父さんは歳を取り、宿を閉め、この近くの施設に入られたことを聞いた。

「じゃあ、僕の奥さんの旦那さんがね。この近くでシルバーアクセサリーの工房を持っていてゲストルームもあるから訪ねるといいよ。連絡しておくね。」

薪割りをしていた銀職人のアゲさんは、いらっしゃい、まあコーヒーでも。と自分で焙煎しているというコーヒー豆を挽いて落としてくださった。

シルバーアクセサリーを買い求めに来たお客さん、そしてアゲさんの古くからのお友だち夫婦はキャンピングカーで神奈川からやってきた。思いがけずにぎやかな時間。

(ポロンノご主人のゴウさん)

「これから焙煎するよ」
アゲさんの焙煎を見学させていただく。彼がやっているのは炭火焼きという手法。古くからある方法のだけれど、炭の火のおこしかた、炭の火の特性をよく考えないと難しい方法だ。ガスと違って炭は途中から火を調整することができない。アゲさんは炭をまんべんなくおこして、そこから火が均等にひろがるように炭を注意深く並べはじめた。

波打ち際のようなザー、ザーという豆がまわる音。
そこにコーヒー豆がはぜるパチパチという音が加わっていく。
そのカオリと音、そして時間が焙煎の仕上がりの基準となる。
なんともかんとも。職人のようだ。僕にはやっていることは分かっても、そこから先の想像力は生まれない。

だいのオトナ達が、食べられるキノコが生えた!と庭にしゃがみこみ、そろそろ釣りの時期だとシャケ釣りの計画をしはじめる。子どもたちはのびのびと父ちゃん母ちゃんに今日あったことを話し、それをニコニコしながら聴いてあげる。

とうちゃんは、しみじみと今日のごはんもおいしい!ありがとう!とかあちゃんに言うのをみんな普段どおりの姿でごはんを食べながら流している。

そんな家族の当たり前に、ぼくはなにか懐かしさと憧れがまじったような気持ちになった。いつか自分にもそんな日が来るのかな。来ればいいな。


「シゲちゃんは道東の誇りだから絶対に行ったほうがいい」とゴウさんに言われシゲちゃんに会いに行った。美術館シゲチャンランドは、彼の世界そのものだった。木の根っこの生き物たちにゾワゾワした。夜には絶対来たくない。ここには人間の持つさまざまな感情がそのままあるようだった。

自分の暮らし、そこから世界を見つめるシゲちゃんの目はほんとうに曇りがなくてキラキラしていて、たった1時間かそこらだったけど、彼と話すと少しだけだけど彼の見ている世界をのぞかせてもらっているような感覚を覚えた。

シゲチャンランドhttp://www9.plala.or.jp/wl-garden/shigechanland/



阿寒での1週間。
僕はそこでアイヌの精神に触れ、家族と触れ、そこにある自然に触れた。
その全部がなにか一筋の光として繋がっているようで、僕はとても大きくて、それでいて柔らかな光のなかに包まれているような、そんな気がした。

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