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思いを交換することで、人は生きてきた。

思いのほか、濃い時間を過ごした青森を離れ岩手へ。
「東北はみんなシャイなんじゃないか説」は僕のなかではすっかり消滅した。盛岡に到着して駅前通りを流す。ずーっと続いていく商店街を抜けたそのさきにお堀があって、この石垣をバックにコーヒー淹れようとセッティング。さあどんな出会いが待っているだろうか。

・・・・・。
誰も止まってくれない。確かに人は行ったり来たりするんだ。
けど、挨拶してもこちらをチラッと見るだけで、うつむいて去っていく。
こんなときにこそ人間力が問われるのだということを思う余裕もなく、なんか自分が悪いことをしているような思いに陥るのが西川昌徳の特徴だ。
誰かに伝えたいという思いの前に、受け入れてほしい、認めてほしいというような思いがきっと働く肝っ玉の小さなオトコなのだろう。

キィーっと自転車が止まった。
「さっき気になったんですよ。戻ってきました。」
おぉ。神よ。神々しい後光が差して見えたのは、笑顔のさわやかな彼がボウズだったからではないだろう。そう信じよう。

彼が止まってから、次々に行き交う人たちが来てくださるようになった。
彼は福の神だったのか、やはり後光が差していると思ったのは!

ひととおり落ち着きお話していたときに、目の前にすっと立っていたさわやかな青年。人懐っこい笑顔で話しはじめた。

「コーヒーやられているんですね。僕もコーヒーが大好きなんです。」
彼は大学生で、スタバでバイトしながら自分でもコーヒー屋さんをめぐっているそうだ。僕の淹れ方、焙煎にも興味津々だったので彼にも体験してもらう。そうそう、そのやってみたい気持ちがおじさんは大好きだ。

まわりが暗くなってきた。大学生リョータはまだなんとなく話がしたそう。
「よし!時間ある?片付けてうまいもんでも食いにいこうか!」
と声をかけるとニコッと首を縦にふった。

日が暮れた盛岡のまちを彼と歩く。
彼は家庭のこと、自分が青春を捧げた陸上のこと、就職活動のことなど話してくれるのだが、その年齢にしてはかなり苦労をしてきたほうだと感じ、こうたずねた。

「そんだけさいろんなこと体験してたらさ、同い年の子たちと話が合わへんやろ?」

彼は、はい、とうなずきまわりからは意識高い系やなぁと揶揄されることもあるのだと話してくれた。そりゃそうだ、体験してきたものが違う。多くの悲しみと挫折を味わってきた彼にとってそれは避けられない現実だもんな。

蕎麦屋に到着し、食べたいものを全部注文した。


コーヒーのお返しにいただいたお金をまた次に。こういうときは甘えさせていただこう。もりもり食べて、もう少し話そうということになって、彼は僕をスタバに連れて行ってくれた。

「今度は僕にご馳走させてください」
おぉ、かっこいいこと言うやんか。うん、そしたらごちそうになろうかな。

しばらくカウンターから帰って来ないなと思っていたら、彼はこんな素敵なプレゼントをしてくれた。おいおい、かっこよすぎるやんけ。カップホルダーには、スターバックス岩手1号店にようこそ、日本一周がんばってください。とあった。

カウンターでいろいろ僕のことを話してくれたんだな。

自分があげたものよりもたくさんのものを彼からもらってしまった。
それは、なんだろう、清さというか、まっすぐに何かを信じる心とまなざしというか。

こうしてこの旅を通して、僕はコーヒーを淹れ、そのお返しに感謝の言葉や、ものやお金をいただいたりしているのだけれど、けれどもそこには同じだけの思いが入っていて、それが自分と相手で交換される。そのときに心にあるさわやかなあたたかみのようなものが、もしかしたら人がはるか昔からわけあってきたものなのかもしれない。


*その後の旅
岩手盛岡から、小学校時代の恩師が愛した宮沢賢治のゆかりの土地をたずね宮城県栗駒市へ。ここで講演とくりこま高原の友人をたずねた。良い出会いをたくさんいただき、僕は次の目的地の先代へと向かった。


自分の人生を実験台にして生きているので、いただいたお金はさらなる人生の実験に使わせていただきます!